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なんでもインターネットで手に入る良い時代
クリスマスなのでちょっとテーマを決めて料理を作ってみたかったわけです。フランスやイタリアやスペインも良いが、もうちょっとエキゾチックな物。といってもカレーまでいくとクリスマス感というよりは節操のないインド映画感が出てくるのでもうちょっと欧風に。というわけでなんでココに落ち着いたのかはよくわからないがただの思いつきであることは間違いない。

何か最近ステマ著しいジョージアの料理だが、「日本人に合う」と言われているようだ。ジョージアの地コーカサス地方は西洋~インドの丁度真ん中にあり、中東よりもヨーロッパやロシア寄りの近東と言われる地域で、地理条件がそのまま料理の気風にも現れていると言って良く、極限まで雑に言うならギョーザやカレーよりは洋風だがパスタやビーフシチューよりはアジア風という料理が多いようだ。まあ、各地の食文化をつまみ食いしまくってごった煮になっている現代日本から見ると何かしら共通項があるのかもしれない。

今回は3品作っていく。ナスにクルミペーストを乗せた前菜「バドリジャーニ」、ジョージア風ギョーザ「ヒンカリ」、ジョージア風ビーフシチュー「オーストリ」である。レシピは適宜検索していく。

どうでもいいが「オーストリ」と言う名前がなんというか検索妨害甚だしい。グーグル先生にどれだけオーストリのレシピをくれと言ってもあくまでオーストリー(旧名オーストリア)料理のレシピを検索対象にしようとするし、その割にジョージアを入れるとレシピを調べるにはクソの役にも立たないまとめ系サイトが並び、より突き詰めると「ジョージアとオーストリ(ー)は最近国の呼び名が変わった国々なんですよ知ってましたか?」という知っとるわ知識を披露したくて仕方ない検索結果になってしまう。
現地語でやろうとは思いつつも、アルファベットや漢字やキリルやハングル程度ならまだしもグルジア語とグルジア文字となるともはやどう打てば良いのかすらわからず
レシピ調べは難航した。世界の共通言語英語表記だ!と思ってもそもそもこれらの料理名を英語でどう打つのかわからない。
また「georgian」ナンタラという検索には少なからず米国ジョージア州の情報が挿入され、もう何をどうしたらこんな検索しにくい名前になるんだSEO対策考えろやジョージア政府!という理不尽極まりない要求を突き付けたところで、結局まずオーストリと言う料理の文字から知るために、先ほどあれだけ無能扱いしたグーグル先生の機械翻訳やサジェストに
靴を舐めるようにおすがりしてちょっとづつ掘り下げていった。

https://georgianrecipes.net/

というわけで家庭料理大国アメリカにはこんなサイトがあった。たぶんアメリカだと思う。このサイトをメインにいろいろと参考にしながら作っていこう。

・バドリジャーニ(Badrijani:ბადრიჯანი



件のサイトのレシピは数字を読むだけでアメリカンサイズだと理解したため半分~1/3量にしてみた。スパイス量は多めにしてある。

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ナス250g。というか小さいの3個
くるみ120g。百均行くと売ってる40g入り3つ
にんにく1片。大きめ
フェネグリーク 小さじ1弱
コリアンダー 小さじ1弱
パプリカパウダー 小さじ1弱
エストラゴン 少々
白ワインビネガー 小さじ2杯
塩 小さじ2杯
オリーブオイル 50ml

焼きナスにクルミとニンニクとスパイスからなるペーストを塗ったくるという前菜。巻いたりもするらしい。
クルミ味噌というやつがあるようにクルミ料理自体は世界的に割とポピュラーではあるし、そこにナスというのも想像しやすい感じだ。ただの無国籍料理にならないためには、キモはスパイスの配合にあるだろう。

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スパイスの図。左上皿上がエストラゴン(タラゴン)、下がフェヌグリーク、右上の皿がパプリカパウダー、下の皿がコリアンダーホール。
上記サイトのレシピには「マリーゴールド」とあり向こうではポピュラーらしいがこちらでは鉢植えに咲いている姿しか見かけない。調べると「ミントマリーゴールドという種類がエストラゴンの代用として使われる」という記述を見つけたのででは逆も可能だろうという素人判断でエストラゴンを加えている。しかも少し量を少なくすると言う日和りっぷりが垣間見える。
フェヌグリークは「ブルーフェヌグリーク」とレシピにあるが後から調べたところこれは「Trigonella caerulea」という植物から採れる「Utskho Suneli」というスパイスであるらしい。完全にスルーしてフェヌグリークを使ってしまった。まあいい。

あとはどのご家庭にもあるコリアンダーホールを加えてごりごりと擦る。

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面倒くせぇな!
いや白状するとスパイスは基本ホールのまま炒めてカレーにするほかはパウダーを使ってるので普段こんなこと絶対しないんですよええ。初めてこんな事してるよどう潰せば良いんだ。スパイスミルなんてねえよ

ていうかクルミとニンニクもどうせフードプロセッサーかけるんだから一緒に潰せば良くない?いやいやそんな細かいとこまで挽けないし粒が残りそうな…

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どーん!考えない。フードプロセッサーを信じろ。
というわけでナス以外の食材は全部フープロにかけてペーストにします。オリーブオイルが入ってるのでわりと良い感じにペーストになる。

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あとはナスを薄めに切って焼いて上にのっけろ。

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くるみペーストはスプーンでやるより思い切って手でぺたぺた乗っけるのがおすすめ。今回は巻かずに乗せた。
120gのくるみはちょっと多かった感があり、ナスを増やすかクルミを減らしてもいいと思う。

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かんせい!

味。これはキケンである。酒が吸い取られる奴。スパイシーでオイリーなくるみペーストとナスが素晴らしく合う。どんどん酒をもってこいというかんじになる。前菜と言うよりは完全につまみ。
スパイスが決まった感じがある。コリアンダーとエストラゴンが利いた。書いてなかったので入れなかったが、カイエンペッパーを加えてもっと辛くしても良かったはず。あとこの配分ではくるみペーストのパワーが強くナスの地力が不足しているため、もっと加熱に向くイタリアナスの類でやるべきだと思った。これは夏になったらやりたい。
あと途中で一回だけ歯にゴリッと挟まるものがあった。よいこは横着せずちゃんと挽くかパウダーを買いましょうね


うまかったので次。


・ヒンカリ(Khinkali:ხინკალი)



「キンカリ」のように読めるんでないかと思うが発音の話なのでわからない。
端的に言うとジョージア風ギョーザ。「挽肉を生地で包む」という小籠包からラザニアまで人類普遍の叡智の結晶が、ここコーカサスにも存在した。


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大判ギョーザの皮 1パック
合い挽き肉 400g
たまねぎ 中サイズ1個
塩 小さじ1
(コリアンダー、キャラウェイシード 小さじ1)→フメリ・スネリ 小さじ1弱
水 250ml


今回は面倒なので市販の大判ギョーザ皮に挽肉のタネをつつみましょう。
そういえば何も考えずギョーザのノリで合挽肉を買ってきたが、
ジョージアはグルジア正教会で知られるようにキリスト教国であり、多くの人にとってはシャリーアもカシュルートも関係ないので豚肉や牛肉も大丈夫。ここらへんボンヤリしているとかなり疎かになるのが宗教に鈍感(断じて寛容などではない)な日本人の悪いところ。まあこの場合食うのは日本人なんだからべつに問題は無いけど。

さて元のレシピでは
キャラウェイシードやカイエンペッパーが少々入るところであり写真にも載せているが、ここで入れるのはフメリ・スネリというミックススパイスだ。

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何の国の料理にでも言えることだが、その国の料理の基本中の基本みたいなものがあって、それは日本ならば酒しょうゆみりんだとかインドネシアならばサンバルだとかだが、基本的にはスパイスやハーブで構成されることが多い。台湾に行ったときはだいたい何の料理でもスターアニスの匂いがするし、アメリカ大陸ではだいたいオレガノが振ってある(偏見)、そういう基礎をまず掴んでおけばあとは煮るなり焼くなりしても雰囲気は出るものです。

そういう思いで今回見つけたのがジョージア料理のスパイス「フメリ・スネリ」。これはインドのガラムマサラや中国の五香粉のようなミックススパイスで、説明によると塩、コリアンダー、フェヌグリーク、バジル、マジョラム、ディル、チャービル、ミント、パセリ、ローリエ、カイエンペッパー、ターメリックと、唸るほど「インドとヨーロッパの間」感が強い組み合わせで面白い。クミンやタイムと言った、「もうそれあるだけでその国の香りしてくる」系典型的なスパイスやハーブがなく、コリアンダーが主体のため中東~北アフリカのラスエルハヌートと似た味わいだと予測は付くが、イスラエルやレバノンのザータルとは逆に全く一致しないし、一歩間違えるとフランスのブーケガルニになりそうなハーブ群、料理とどう調和するのか。
実のところミックススパイスに厳格なレシピは無く、店や人によって違うので、このメーカーのフメリ・スネリが本当にジョージア現地で料理を食べたときと同じ味という保証はないが、不思議と基本の調合と典型的な方向性はそれぞれあるものでそれを信用したい。まあこの商品も少なからず現地で使われているだろうから心配は要らないか。

実際の匂いを嗅いでみると、コリアンダー主体なのは間違いないが強烈にハーブが強く、特にミントが利いているのが特徴。コリアンダーの重い香りと相まって全体として重いとも軽いとも、爽やかともこってりとも、暑いとも寒いとも言い難い不思議でエキゾチックな趣がある。これは欧風ハーブに慣れた身にもインド系スパイスに慣れた身にも未体験な領域では無かろうか。

というわけで貴様らホールスパイスはもう用なしだ!消えろ消えろ!貴様らなどただの飾りだ!スパイスをホールで並べてなんとなくインスタ映え的なものを目指す以外の存在価値はない消えろ消えろ!


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まあせっかく出してきたことだし、キャラウェイシード君はちょっと擦って入れておこう。

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スパイスを挽き(フメリ・スネリがあれば不要)

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タマネギをみじん切りに。ここらへんはまたフードプロセッサでもいいんだけど、個人的に挽肉と合わせるときのタマネギは極小ダイス型に自分で切るようにしている。タマネギのはじっこ残して切れ目だけ入れてくアレ。

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挽肉とタマネギみじん切りのタネに塩とフメリ・スネリを練り込む。ひたすらに練る。
フメリスネリのおかげでたちまち中東風の香りが沸き立つ。危ないところだった。これがなければ完全にギョーザのタネを練っているようにしか思えなくなるところだ。
さてタネを大さじにとり、生地に乗せて包んでいきましょう。

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いやいやいややっぱりギョーザじゃねーかこの光景
実際ヒンカリはこぶし大とされているが、これで出来るのはかなり小さめの小籠包サイズだ。一回に取る量も大さじ一杯取るとかなりキツいのですこしだけ手加減すること。
こだわる人は生地まで自分で作るべきだが、実際大きさ以外はマジでただのギョーザの皮なので、出来るところは省力化しても良いと思う。だいじょうぶエスニックな異国成分はスパイスが補ってくれる。


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省力化以前の問題として包むテクニックが足りないと穴が開いてしまう。この写真も包むこと自体は上手くできているが、なんというかこう、ちゃんとしたヒンカリの写真とは似ても似つかない。

とりあえずコツは細かくプリーツを折ってタネをぎゅうぎゅうに詰めること、指に水を多めに付けて最終的に溶かして塞ぐこと、このサイズでも思い切って「つまみ」部分を大きめにすることである。つまみの部分はほんとうに持つ場所の意味しか無く、本国では食べずに残すらしい。

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だんだん自信がなくなってきてこういう方向に走ってしまいそうになるが、自信を持って俺はジョージア料理を作っているのだと自分に言い聞かせて頂きたい。ぶっちゃけ面倒になったらギョーザ型とか小籠包型でも味は大差ないと思います。


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なんだかんだで数名、自分の内なるイメージに負けた落伍者を除けばそれっぽい感じにはなった。

深めのフライパンで塩水を沸かして(分量外)、こいつらを投入していきましょう。

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いよいよ茹で餃子であるが、ヒンカリです。
ゆで時間は12~14分。茹で終ったらそっとザルにあけるなり一つづつトングでつまんで出すなり、皿に盛ってよろしい。

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良い感じの小籠包になった。ヒンカリだと言うに。
好みで黒コショウをかけて食べる。このサイズならつまみの先っちょまで食べられそうだ。

味だが、まあほぼほぼ水餃子ですよね。知ってた。
ただし、フメリ・スネリのエスニックな効果は絶大で、和風欧風や、良いとこ東南アジアやインドの風味に慣れた身にとってはまったく未体験な異国情緒が味わえる。コリアンダーなどのスモーキーな中東風と、やたらと鼻に抜けるハーブの利いた欧風が同居、と説明されるとそうなのだが決して異質な物同士のコンタミ感はなく、知らない異国の重厚な食文化の歴史の片鱗が見えるような不思議な体験がある。

レシピ通りではおそらく塩が足りない。ギョーザのつもりで作ると何も付けずに食べるには少々ヘルシーすぎる味わいになる。またタマネギはあっても無くてもいい気がする。
余談ながらしょうゆを付けて食べると完全に小籠包味になった。知ってた。というかしょうゆを出されるとほとんどのハーブ類の風味が消え失せ、唯一スターアニスっぽい風味だけが残って本当に台湾料理っぽくなってしまう。この分だとトマトソース付けて食ったらそういう料理になるなこれ。
このスターアニス感には少なからずキャラウェイシードが作用していると思われるのだが、ぶっちゃけフメリ・スネリ入れてたら入れなくても一緒かなと思った。



・オーストリ(Ostri:ოსტრი)



次。ジョージア風ビーフシチュー「オーストリ」である。ビーフシチューとカレーの間と言うか、基本的には西洋風煮込み料理、味付けはスパイシーな中東~インド風というところでまたもや食文化伝播の過程の生きたサンプルのような一品。

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牛肉 400g
ローリエ 1枚
水200ml
バター 50g
たまねぎ でかいの一個半
トマト でかいの3つ
カイエンペッパー 小さじ1 + 好み
(コリアンダー 小さじ1)→フメリ・スネリ 小さじ1
トマトケチャップ 大さじ1
ニンニク 1片
きゅうりのピクルス 100g(好みで)
赤ワイン 大さじ1(無くても)
パセリ、パクチー お好みの量で。7gくらいづつ?
塩 味見しながら適量


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パクチーとかいうSNS映え要員がいるが、実際のところさっきから使いまくっているコリアンダーの葉っぱなので大根料理に大根菜をいれるようなものである。
牛肉はスネなど煮込みに向く部位を用意したいが、なければカレー用ので良いです。
とりあえず今回は圧力鍋で肉をガッと煮込みます。

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まず鍋に油と肉を放り込んで塩コショウ(分量外)をおまじない程度振ったのち、そのまま炒めて表面に焼き目を付ける、フレンチで言うところのリソレをしておく。リソレが終わったら水200mlとローリエを入れてフタして圧力調理。今回やったのはすね肉で強圧5分程度。

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そのあいだにタマネギやトマトやにんにくはみじん切りにする。こちらはフードプロセッサで汁を逃さずみじん切りにした。

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あ、真ん中の部分を横から切ってこういう形のタマネギを残しておくとあとで見栄えに貢献します。

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いうまでもなくトマト缶で良いと思うのだが、トマトの甘みが重要とのことなのでフレッシュトマトにしてみた。


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にんにくとたまねぎは一緒にして良いが、トマトとは分けること。


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牛肉の煮込みが終わったら、煮汁と肉とを分ける。煮汁は捨てずにボウルに取っておく。
以降は通常の加熱にうつるので鍋もインスタ映えな鍋に代えておく。(やらなくていい)

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バターをどかんと放り込んで火を付ける。適当にかき回して溶けてきたらタマネギとにんにくを投入し、弱火で炒める。
…せっかく鍋分けたんだから、肉分け入れる前に最初にバター溶かしてブールノワゼットにしてたまねぎにんにくを炒めるべきだったと思った。後の祭り。

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透明よりすこし火が通った感じになったらトマトとスパイス類、ケチャップと塩、あれば赤ワインも入れる。
弱火~中火で煮込んでいく

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煮込むと汁が出てだんだんとスープ状になっていくので、そこに先ほどの煮汁を戻す。

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アクとか取ってないけど牛の煮汁ですよ旨みですよ。
フタして15分くらい煮込む。

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そのあいだにパセリ、パクチーをみじん切り、キュウリピクルスは小さめに角切り。
煮込み終わったらこれらを投入し、まぜまぜしながら味見して塩やカイエンペッパーやフメリスネリを足す。
皿に盛ったらタマネギをらせん配置して完成。


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うむ。
まあビーフシチューというより牛肉のトマト煮なのだがやはりこちらもフメリスネリとカイエンペッパー、パクチーが適切に効いており、「異国の地で振る舞われる牛肉をトマトで煮たような料理」という雰囲気を強烈に表現することに成功している。この貧困な語彙よ。
タマネギとトマトのみじん切りとスパイスを炒めたもので肉を煮たらどう考えてもカレーじゃねーかと言われても否定できないし、間違いなくスパイス代えたらカレーになる。

トマトが入ってるのでトマト料理過ぎるのが問題かも知れない。何言ってるんだ。16世紀に有毒の観葉植物としてヨーロッパにもたらされたこの作物が多くの食文化を蹂躙してきたのは言うに及ばず、もはやこの星の料理はトマトとスパイス無しにはあり得ないものとなっている。
ジャガトマ警察(中世近世風のファンタジー世界に新大陸由来の作物が存在する事が許せないカルト宗教の一派)的思考で言えば、このオーストリも料理としての歴史はかなり新しく、ご当地の料理と言うよりは近代の無国籍料理と言えるのかもしれない。

ただ、スパイス自体インドやアジア以外では存在し得なかったものである。スパイスがヨーロッパにもたらされたのは紀元以降であるようだが、当地では紀元前3000年頃には既にスパイス文化が発達していたと言われる。人類史を考えればたかだか数千年程度の差でトマトがダメでスパイスが良くなると言うこともあるまい。

なお、アメリカ生まれで思い出したが「お好みで」と言われて入れたキュウリのピクルスであるが大大大失敗だったので諸兄らは入れない方が良い。どう考えてもコレは「アメリカ人好みのアメリカ味にするためのオプショナルチョイス」だった。美味いことは美味いというかトマトと牛肉に合わないわけがないので大変においしいのだけど、これは完全にアメリカンダイナースタイル、ハンバーガーにまで挟まってるアレの再現であろうという確信がある。
我々の国のレシピでもなんとなく洋風や多国籍料理にしょうゆとかみりんを使っちゃうアレのアメリカ版がこのピクルスだったわけだ。


さて、ジョージア料理をこれまでスパイスの通り道とトマトの通り道というなんかどうでも良い通過点の産物みたいな扱いをしてきたが、この地域を始祖としてトマトとスパイス同様に、いやそれどころかそれらより遙か以前に、東西に強力に伝播したと伝えられるものも今回は使いました。


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食文化の伝播の起源にして頂点たる存在、それが「ワイン」である。

・キンズマラウリ(KINDZMARAULI:ქინძმარაულის)



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というわけでジョージアワインを買いました。その地の酒とその地の料理が合わないわけがないという単純な話さ。

陶製ボトルがカッコイイ。描かれているのは試飲の風景。
ジョージアは、紀元前6000年前の陶器からワインの痕跡が見つかったことで世界最古のワインの地として売り込みをしている。いや煮え切らない言い方だが、ワインの始祖については諸説あるし現状最古と言うしかないのだが。
イランやイラクあたりをもっと精緻に調査すればワインの起源は見つかると期待されている説もあるが、情勢が安定しなければ実現しないだろうし、禁酒のイスラム圏の国で「酒の起源」を見つけても観光資源的にイマイチ盛り上がりに欠けるためか政府も乗り気でないらしいとかなんとか。
なんにせよこの中近東の付近でワインという存在が誕生し各地に伝播していったことはおおよそ疑いがないとされている。

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それにしても最低でも6000年前と来た。人類の食文化の伝播という点ではトマトやスパイスなど新参者に過ぎない。
当然6000年前にガラスのワインボトルはないと思われる。いやどこかの学園の建設現場では数万年前の地層からマヨネーズの蓋やビニール片が出て来たらしいが、おおよそそのような忖度を除けばやはりガラス瓶は無さそうなので、この陶製ボトルも古代のワインボトル「アンフォラ」をイメージしているわけだろう。そのくせ形状は完全に現代のワインボトルなあたりがお土産感があってよろしい。いやガチでアンフォラの形(地面に刺すために尖っている)にされても自立しなくて困るが。

こういう陶器瓶、いわゆるストーンウェア・ジャグの酒類はウイスキーではウシュクベやプラットヴァレーなど非常に多く見られるが、ワインではなかなか珍しい。
というかかなり作りが手荒いのが良い。現代の「ストーンウェア(炻器)ジャグ」と呼ばれるウイスキー瓶のほとんどが伝統に敬意を払いつつも現代的に釉薬を使ったツヤツヤ陶器の精巧な大量生産ボトルであるのに対し、キンズマラウリはそれこそ炻器のような植木鉢の質感に近い。置物としてもなかなか迫力がある。


ワイン屋広告知識を総合すると、「キンズマラウリ」というのは製品名でなくワインのアペラシオンであり、なおかつ「キンズマラウリ社」というメーカーが作っているが独占というわけではない、ちょっとややこしい状態のようだ。まあ「ロマネコンティ」だって独占であるからわかりやすいだけで、「ロマネコンティ・グラン・クリュ」という畑の名であり「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ」という会社であり「ロマネコンティ」というワイン名なんだけど。

この上地名やブドウ品種までキンズマラウリって名前じゃあるまいなと思ったが、「サペラヴィ」という土着品種とのこと。キンズマラウリAOCとは「カヘチ地方クヴァレリ地区のサペラヴィで作られたセミスイート赤ワイン」のことであるらしい。

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そそぐ
深紫の色合いでどっぷりこゆいのが見て取れる。香りはそれなりといった感じで少々酸味を感じる。

のむ
あまい!ポートワインのような甘みを感じる。「セミスイート」というが一般的に甘い赤ワインは珍しいので、赤ワインだと思って飲むと甘ッ!ジュースか!みたいな感想になるのではないかと思う。

しかしこのてのほとんど市場で見かけない新世界ワインにある「味わいと言うより単に醸造技術足りてないだけでは」感はない。6000年の時を経たワインの始祖の血族相手に「新世界」もクソもないが、それはともかくたいへんよくできた飲みやすいワインだと思う。むしろこってりとした果実味と結構節操のない甘さは一種独特の上品さで、ジョージア料理に不思議に合う。不思議も何も同じ文化の産物なのだから当たり前なのだが不思議なことにこの甘さが良く合う。

あと言うまでも無いがとくにストーンウェアだからといって石臭かったりはしない。

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ごちそうさまでした


というわけでジョージアの料理とワインに接した。異国情緒という単語が実に良く当てはまる。とくにフメリ・スネリの存在を知り手に入れたのはスパイス好きとしてはかなりの収穫である。異国っぽさを出したいときに使うことにしたい

ただまあこれでジョージア文化に接したとか理解したというのはかなりおこがましい気がする。知ったかぶって再現を試みただけの話だし、本物を食べたこともないのだから。
Vogue誌ゲイシャ写真の件で一躍表面化した文化盗用問題なんてのもあるが、異文化の料理を(いい加減な再現で)作って食うことととカルチュラル・アプロプリエーションの境目というのも問われるとなかなか難しいのではなかろうか。
件の例はファッションであることがかなり問題視されたと思われ、食文化に限っては(まだ)民族的なアイコンとは捉えられてない気もするし、スシバーが同じ文脈で問題視された例は余り聞かない。逆に日本のバラエティでやってるような「スシポリス」のケツの穴の小ささの方が日本人的には気になるところ。
かといってこれが少数民族文化の場合に同じことやるのはかなりギリギリだともまた思うわけです。アイヌ料理とか和人が盗用して店やったら問題あるだろうし。

面倒くさい話になってきたが、一応文化の伝播に思いを馳せるという今回のテーマは満たせたのではないだろうか。そんなテーマあったのかよ。ねえよ。クリスマスの料理に変わった物選んだらこうなっただけだよ。最初に言ったけど。

なお、敢えて言わなかったが彼の地ジョージアのグルジア正教会は旧暦になるのでクリスマスは1月7日です。つまりぜんぜんなんの関係もない日にクリスマスにかこつけて料理を作ってしまったわけだ。まさにこういう態度こそが文化を馬鹿にしているとしか言いようが無い。食い終わってから気付いたんですよ自分。アホじゃないのだろうか。メリークリスマス。