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ホコリの気になる家に引っ越しましたので空気清浄機買いました。というおはなし。

●空気を清浄しよう


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まあ、よくある白物加湿空気清浄機くらいご多分に漏れず持ち合わせているのだけど、先日オーバーホールしてみると中は腐海の底であった。言い過ぎた。加湿機構を中心に水垢のなれの果てと黒カビが広がっていた。プロペラ羽の一枚に至るまで拭き上げたのだがそれでも加湿すると若干臭いが出る。加湿OFF運用で使うしか無いが、乾いた空気ではナノイー機能もほぼ働くまい。脱臭フィルタは交換して半年で腐臭の温床になったのでとうに外している。集塵フィルタは生きているしこの時期ならもう加湿の必要はないので喫緊の問題は無いが。

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加湿のためのパーツ群。

そもそもからして空気清浄機で水を使って消臭、加湿、除菌しようとするのが間違いなのではないだろうか。一般家庭ではなによりも水こそが菌や臭いや汚れの温床だ。スチーム式であれば水や水タンクの汚染があってもボイラーで煮沸消毒されるが、電気代がかかることもあり、空気清浄機と一体化している例は見たことがない。
というかそもそも一体化している必要があるのだろうか。家電製品が背負った永遠の業とも言える、「一体化・複合型の単体性能は微妙」の法則に照らせば、加湿器と空気清浄機を別べつに使うのが性能上はベストのはずだ。

スチームで手頃な加湿器の選択肢はたくさんある。ならば単体で高性能な空気清浄機を買えば良い。というわけで今回の主役、スウェーデンが生んだ北欧家電、ブルーエアの270E Slimです。

おやしかしブルーエアは最近Wi-Fi対応の新型が登場していてこれは型落ちでは無かったか、とお気づきの家電マニア諸氏もいらっしゃるだろうが、あまり他人の持ち物にそういうキモいドヤをやらない方が、世間的には身のためであることを前置きしつつ、仰るとおりの中古購入であることを宣言させて頂く。何故かは後述する。

●スウェーデン生まれの空気清浄機専業メーカー「ブルーエア」


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ブルーエア!どの家電ジャンルにも「競合他社より頭一つくらい抜けた高級品だがどう見ても機能が単機能だしデザイン勝負という類でもない」というストイックな奴がいるものだが、空気清浄機界でその座に居るのがこの会社だろう。
デザインの良さや唯一無二の特性をもつものならばCadoやバルミューダなどもいるが、今回は北欧の全力でシンプルな世界観に身をゆだねてみる。

ブルーエアは同じくスウェーデンの有名家電メーカーElectrolux出身の技術者が立ち上げた企業で、最高の空気清浄機を目指すメーカーとして近年急成長している。デザイン性も哲学も北欧っぽさがあってよい。

ブルーエアの理想、すなわち空気清浄と言う概念そのものについてちょっと受け売りを交えて考えてみたい。同社は米国家電製品協会が定める「CADR(クリーンエア供給率)」における最高評価を得た、数少ない空気清浄機という触れ込みだが、実際のところそれを獲得したのはフラグシップ機(現行では680i)だけの話。
CADRの評価は乱暴に言えば「空気をどれだけ綺麗にするか」、でなく「どれだけの空気を綺麗にするか」つまり大風量高効率が評価される基準である。
こうなると基本的にはパワーや筐体の大きさ勝負になり、我々日本の庶民はウサギ小屋にも入るような貧相なマシンで、ちまちまとイオン発生器でも焚いて付加価値を底上げするしかない。同社の製品が概ねデカいのもこういった背景がある。

「質より量」のような話に見えるが、「空気清浄の質」とはHEPAフィルターを通った時点でほぼ限界に達している。いまだ終息の見えない福島第一原発作業員の装備でもお馴染みのN95マスクが0.3μmの粉塵を95%カットする一方、空気清浄機や高級掃除機に用いられているHEPAフィルタは0.3μmの粉塵を99.97%カットする。ホコリや花粉は当然のこと、エアロゾル散布型の毒ガスや、放射性フォールアウトなどもHEPAフィルターで対応できるらしい。

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引っ越しに活躍したN95マスク

少なくともフィルタがこの性能で不足というならば工業用クリーンルームでも要求しているのかというレベルで、室内の与圧や塵埃発生源の持込み制限などの対策をとったほうが有効という次元の話になってしまう。
対応できないのはウイルス・細菌や完全なガスなどだが、前者はフィルタリングでなく加湿や消毒で対応すべきものだし、「このあたりはガス状の有毒気体が多くて心配なのですが良い空気清浄機は無いでしょうか」という方がいたら清浄機買う前に頼むから引っ越して下さい。

このため空気清浄機に求められる実力とは純粋に「量」で間違ってはいないのだ。加湿やイオンなどの付加価値が不要とは言わないが、それらを持たないブルーエアの実力勝負という面は魅力的に写る。
ただデカけりゃ良いならどこの会社でも作れそうだが、集塵力はそのままに、通り抜ける空気量の多さを追求した「HEPASilent® Technology」なるフィルターユニットがブルーエアの独自性である。フィルターが本体という感がある。

●筐体はでっかい

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どがん。
ファミリー内で最小、それも「Slim」とまでついているが実際は相当の大質量物体である。北欧らしいシンプルさがあり、確かにデザイン上は穏やかかつ人間を威嚇しない優しい見た目なのだが、それを圧倒する強大な物量感が「ワアお洒落な北欧家電」という平和な感想を許してはくれない。

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まあそもそも一般的な国産空気清浄機もそうコンパクトなものではない。せいぜい横幅が広い程度に見えるが、この「デカいものが置いてある感」は素材や形状によるものも大きい

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金属製などと言うのも上品過ぎるように感じる堂々のスチール筐体である。弾薬ケースとまではいかないが、押してぺなぺなする感触があったりはしない。

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臭いとホコリのセンサー部。おそらく右下のぽっちは隠しネジだと思う。意外と手入れのしにくい部分。

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白い部分はプラスチックかと思いきや分割された上下端部分を含めて全てスチールである。フルメタルボディとかおおよそ家庭用空気清浄機の特徴として挙げられる点ではない。いちいち謎のイキったデザインでない潔さだけでなくガチ鉄塊の存在感が漂う。中古筐体だが、汚れの度合いはかなり軽く、ごくごく基本的なクリーニングでピカピカに出来そうだ。

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「ブルーエア」の名前から真っ青に光るに違いないという期待を100%裏切らずに叶えてくれる安定の青色LED。こっそり「ON」の文字が彫られている。


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上部操作部。リモコン収納蓋つき。操作は電源オンオフとスピードしかない。


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背面は全面吸気口。モアレテストではありません。

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底面。3ピンとまでは行かないがきちんとアース線も生えたごんぶとの電源ケーブルは底面から生えている。少し高めのゴム足がついているためケーブルは全方面に配置できる。

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「デザインが良い」といわれるブルーエアだが、いや確かにデザインはいいのだが、この大きさとグレーのスチールボディの質感やカラー、開口メッシュ部がスクエアドットで操作部がシンプル、ひどく良識的なワンポイントに留まったオフホワイトのフェイスカバーなど、見れば見るほどデザイン家電というよりはただの業務用サーバーPCである。

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それもDELLやHPやIBMでなく、なんかこう富士通とかNECみのあるタワー型筐体である。フェイスカバーを取って筐体を開けたらXeonが載っててRAIDカードにSASのHDDが4台ほど繋がっているに違いないのだ。もうひとつ大きい4シリーズになるとホワイトのフェイスカバーが両面に付く上側面吸排気となるため、いよいよもって360度どこから見ても大型タワーサーバ以外の何物でも無い外見になってしまう。

ブルーエアのデザインがサーバーぽいと言うよりは、サーバーのデザインはだれも気にしないがゆえに必要最低限の質実剛健を達成できていると言うべきなのだろう。白物家電はとかく人の目にとまる事に舞い上がって謎のワンポイントやシェイプを盛り込みすぎである。空気清浄機なんてこういうのでいいんだ。

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蓋を開けてみよう。フィルターも当然ながら大きい。一般的な加湿空気清浄機と比べてもフィルターの占める面積は90%を超える。

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ほぼ2倍

つくづくフィルターが本体というべき構造になっている。本体など送風機が付いたただのフィルターのフレームでしかない。ガッチガチの頑健な作りとは言えこのフレームに5万~7万円はちょっと高すぎる気がしないでも無い。





↑同社の、マジでUSBファンにフィルタがついてるだけにしか見えないブルーエア mini さん


今回中古品を買ったのも、「フィルターが本体なら枠は安くていいし、数年程度の仕様でへたるようなブツでは無い、フィルターだけ新品を買えば良い」という発想によるもの。
新製品であるClassicシリーズも、使用するフィルタは従来と全く一緒。ただ本体に高性能センサーとWi-Fi機能がついただけだ。この純粋単機能かつ継続運転推奨マシンにWi-Fiなどという北欧ジョークは、寒さの厳しい彼の地ではひとときのサウナのような暖かさなのかもしれないが、ぶっちゃけ不要なのでフィルタさえ新品なら筐体は型落ちで良い。結果として国産空気清浄機よりお手頃な価格でブルーエアの清浄な空気をおうちに満たすことが出来るわけだ。

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覗いてみてもHEPA Silentテクノロジーとやらの片鱗を伺う術はないけど覗いてみたくなるよね。

ランニングコストが高いと言われるが、実際のところ2シリーズ用の1枚5000円は標準より多少上と言ったところ。国産メーカーでも3000~5000程度が相場で、実際のところHEPAフィルタにしろ活性炭フィルタにしろ原価はけっこうお高い。加湿空気清浄機になると水タンク除菌ユニットや気化フィルタの交換もあるのでさらに高コストとなる。

ただブルーエアは常時運転で6カ月での交換を推奨していてこれは確かに短い。一方で国産機はフィルタが10年保つという長寿命を謳ったりしているが、流石にそれはちょっとキタナイのではないか。ユーザー側もケチって本当に10年使ったりしている。よく日本人は家電に品質や清潔さを求めるなどと言われるが、たいていの場合それは新品購入時だけで、経年劣化や汚染に対してはむしろかなり鈍感な傾向があると思う。
「あなたはベッドシーツを10年間変えずに使うのですか」とは同社CEOのリトリ氏の弁、ご尤も。ただフィルタに直接寝るわけではないし、10年とは言わずとも2年くらいそのまま使ったって怒られはしまい。

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フィルタを外すとファンがあるのみ。

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送風口から覗いてみたところ、大型のシロッコファンが見える。素材が違うと内部まで質実剛健である。国産空気清浄機と比べれば超合金ロボ玩具と重機くらいの差だ。これは確かに中古だからと言ってへたるようなものではないだろう。

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さてリトリ氏に怒られないように中古フィルタを新品に取り替えようと思ったのだが、どうみてもまだまだ使えそうな状態だ。中古業者が吹きかけたのであろう消臭剤の臭いが微かに残っている以外は使用感がほとんど無い。外装の汚れの具合といい、この個体は一般家庭で酷使されていた類のものではなさそうな気がする。
残稼働日数表示は当初177を示していた。半年ごとの交換が前提ならこの数字は180ちょっとあたりから始まるのであろう。つまり累計一週間程度しか使っていないフィルタの可能性大だ。こうなると前身は展示品の類かもしれない。もったいないのでこのまま使おう。
なおこの残稼働日数表示はべつにフィルタの汚染度を検知などはしない純粋な日数タイマーである。割り切りというか思い切りが良いというか。

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新品のブルーエアHEPAsilentテクノロジーフィルタと比べてみるとさすがに白さが違う。

注意点としてはこのフィルタ、活性炭などの脱臭フィルタがない。意外とHEPAフィルタでも匂いは取れるのだが、タバコやVOC(揮発物質)対策は万全ではない。
スモークフィルタの名を冠する活性炭付きフィルターは二倍の10,000円という値段になり、さすがにこれを使うのはランニングコストが高すぎる。僕はシガリロを吸うけど家の中では吸わないので不要と思っているが、機会があれば試してみたい。

●空気清浄界におけるイオンとオカルト

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さて送風口に放電しそうな棒が付いている。これはイオナイザーでホコリを吸着するらしい。出たなイオン!崇高なるカルキスト・イオン!(SCP)家電業界に蔓延りやがて世界を滅亡させると予言された悪鬼悪霊のオカルトめ!拙僧のインテリ理系物理学陰陽道で退散させてくれよう!

まあまちたまえ。実のところ静電気でホコリを吸着する電気集塵アクティブフィルタと言えばごくごくなんでもない話。先ほどのブルーエアのHEPASilentフィルタも、内部で静電気を発生させて吸着させる電気集塵を併用しているらしい。

実際のところそういう「イオン系」はオカルトだろうか。数値や実験トリックで生まれる程度の効果を無意味というのは正しいが、オカルトとまでは言い過ぎの気もする。家電業界はオカルトで満ち満ちているのが現実だ。
とはいえ、そういうイオン技術をどうこうといった宣伝をしない「実力派」がブルーエア。前述の通り空気清浄は「量」の問題なので、マイナスイオンだプラズマクラスターだナノイーだ光速ストリーマだがどれほど効果的であろうと、よほど大型でなければさほど大きな影響があるわけではないということだ。

ただ逆に殊更にオカルト視・危険視して見せるのも、まあ一種のサブカル流行の産物であまり真摯な態度とも思えないのが正直なところ。
例えばブルーエアの製造は中国で行われているが、得意げにイオンもののオカルト性を語った同じ口で「中国製は絶対に壊れる、信用できない」などとオカルト(+ヘイトスピーチ)もいいところの評価を下している自称理系知識人おじさんよくいるでしょう。
品質が悪いのは単に販売する企業の目指したクオリティや検品体制が甘いのであり、百万歩譲って中国工場の製造体制が劣悪だったとしても、企業の目指す品質が高ければ歩留まりが悪化するだけの話で消費者の手に粗悪品が届くこととイコールにはなり得ない。例えば散見されるブルーエアの電装が弱いというのが正しいなら、それは中国製だからでなくブルーエア社が電装の耐久性に関心を払っていないためだ。

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この個体もよく見ると液晶がかなり豪快にナナメっている。組み付け精度がどうこうと言ったってこういったエラー品は絶対に出てくるものであり、問題があるとするならこれを検品で弾かない企業姿勢にある。個人的には正常に動くならたいした問題では無いと思うが、競合と比べても決して安くはない家電だしもうちょっとどうにかなってもいいと思う。

それに実際の話、中国製が劣悪などと言うのはもう十数年前に終わった話なのである。自慢げにオカルトヘイトを語っている彼の手にあるiPhoneや高級スマートフォンがほとんど中国製である時点で何かに気づいてほしいものだ。
ぶっちゃけこと電化製品に限れば欧州製よりも中国製の方がよほど信頼できる感があると、年がら年中電装系が何かしらトチっているフランス車のオーナーとしては思うわけだがいかがか。

とかく家電製品を語る者は例外なくオカルトに傾倒していると言っても過言ではないだろう。別に悪いと言っているわけではない。ヘイトなどでなければいくらでもオカルトで製品を選んでよいと思う。そのほうが楽しい。

ただ一つだけ言わせてもらうならば、このイオナイザー、4シリーズや6シリーズではちゃんとフィルタの前側についているが、270Eではスペースの関係からかはフィルタの後側についている。ホコリなどがすでにきれいに漉しとられた空気にわざわざ放電してホコリを集めるのが得策ではなさそうな事は、断じてオカルトなどではなく自明の理と言うのだ。

なおこの手のやらかしは6シリーズにもあって、吸入ファンがフィルタの前についているらしい。掃除を大変にさせるための仕組みにしか思えない。北欧ジョークはファルーコルブの如くどっしり肉厚で重たいのだ。

●使ってみる、そして嗅いでみる

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操作していく。とはいえ電源を入れて風量をオート・1・2・3のいずれかに設定するだけだ。きょうび扇風機でもまだメニューが豊富な気がする。
本来であればリモコンが付属しているのだが、この個体には付属していなかった。そもそもリモコン操作は必要なんだろうか。Wi-Fiを付けるくらいだから、世の人は想像以上に空気清浄機のオンオフを繰り返しているのかも知れない。



ピッ、ガコッ、ブウウーーーーン

ガコッてなんだよ。風量を変えるたびにファンが一時停止して歯車音が鳴る。もしや変速ギア式だろうか。

オートにしたが、初回だからか3段階目の全力スタートで始まった。いやはや大変な風量である。そこらの扇風機やサーキュレーターくらいの風量はある。掃除をさぼっているとこの上昇気流でホコリが舞い散りかねない。掃除しろ。
音量はなかなか盛大でテレビを遮るレベルだが、純粋に風圧の音といった感じでモーターや風切り音が耳障りとは感じない。ここらへんはファンの大きさと剛性がなせるわざだと思う。

出てくる空気は当然ながら清浄であるが、さすがに直接嗅いでみても「業者の消臭剤臭ェな」以外の感想がない。とりあえずカーペット敷きの8畳間で全開にしておいてみる。

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ところでなにやらインジケーターの横に変な奴がいる。臭いセンサーと粉塵センサーの数値を可視化しているようだ。お気に召さなさそうな顔をしているので存分に綺麗にしてもらおう。このモニタは青いバックライトで発光するが、しばらく放って置くと消灯する。

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ニッコリ
ものの10分程度で、プリティな笑顔を示して風速が1に変わった。オートモードでは基本的に止まるということはない。先ほどまでのサーキュレーター音と比べて風速1はかなり穏やかな音で、最近のサーバーマシンはえらい静かだなあというくらいの音になった。
少しバタバタと動きがあるとしょっちゅう風量が2となる。センサーもかなり有効に動いてくれているらしい。


さて空気はどうなったか。「業者の消臭剤臭ェな」以外で言うなら明らかにホコリっぽさが雲散霧消している。いや、事前に長押の上などホコリの巣窟であろう部分は完全に掃除したが、床は普通にカーペットだしベッドも置いてあるので常に相応のハウスダスト空間ではあった。それががらりと透明感のある空気に変わっている。
入れ替えをした新鮮な空気ではないが、とても清潔なオフィスや設備の新しい医院のような、清潔感のある空気になる。というかそれらの空気こそが空気清浄機(それなりの確率でブルーエア)を通した空気そのものなのだから当たり前もいいところだが。

花粉症の方には言うまでもないが、窓を開けて空気を入れ換えるのは空気清浄としてはさほど得策ではない。空気の入れ換えで得られる清涼感は概ね酸素濃度や呼気の排出、温度差や屋外の臭いによるもの。
加湿空気清浄機の場合は、加湿された空気の清涼感というのがあるので多少「外っぽい」空気になる。これがマイナスイオンの類なのかどうかは知らないが、当然ブルーエアにそういう感じはない。言わばドライな清潔感という感じだ。
言い方を変えれば非常に「人工的」な感じとも言えるか。まあそもそも清潔とは人工の産物であるからして悪いことではない。
また実際にこの清潔な空気を吸っていると、やはり加湿というのが清涼感を演出はしても清潔感を少なからずスポイルしていたのでは無いかと思えてならない。リトリ氏、そしてブルーエアの製品哲学としても「水分による細菌の繁殖」を問題視しており、「空気清浄機は単機能であるべき」と考えているようだ。

使う側としても「淀んだ水や腐敗した水垢がどこぞにこびりついているかも知れない」という懸念を今後一切しなくていいのは、想像以上に精神的な安心感がある。前の加湿空気清浄機の腐海っぷりが脳裏をよぎる。皆様も同様の経験がおありでは無かろうか。無いというならばすぐに加湿空気清浄機のオーバーホールをお勧めする。

ぶっちゃけてしまうと空気清浄機の役割のひとつはプラシーボにもあるので、信頼できる清潔さというのはかなり重要である。フィルターを通した後に腐敗汚濁したカビの巣窟を通り抜けてきたと言われると、例え現実的な悪影響がゼロだとしても気分のいいものではない。
ブルーエアの利点は加湿を完全に廃したことによって生まれていると言っても過言では無いのだ。



●かなりの満足度。価格以外。

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ここで厳密な清浄度テストや重篤なアレルギー疾患者の体感などがあれば有用な記事となったのだがうちではこんなもんである。
単機能系は実力勝負、しかし実力を体感しにくい空気清浄機というジャンルでは少々不安があったのだが、実際にはかなり「実力」や「パワー」を感じ取ることが出来た。
実際にホコリや空気の汚れが減ったことによって、モニタなどに積もるホコリの量や睡眠の質にもかなり影響を及ぼしていると感じる。なんとなく残留していた古い家特有の臭いやほこりっぽさも気付けば皆無に近くなっている。しばらくは空気の汚染に気を遣うことなく快適に生活できそうだ。

ただ、パワーの代償としてこの定価は、ちょっと、その、なんというか、無い。高いとかいう次元の話ではない。国産機と比べなくても安価なエアコンやテレビが買える価格を、デザインやブランド力が桁外れというわけでもないストイックな空気清浄マシーンに半ばノリだけで捻出できるかというと微妙なところ。
もちろん花粉症やぜんそくなど、必要な人にとっては出す価値はあると思うが、そういった疾患の方でなくとも清潔な空気を体感して欲しいと勧めるには躊躇する値段だ。
筐体の大きさはデザインのおかげで見た目は気にならないし、アパート暮らしなどでもむしろぜひ導入して頂きたいほど。もう加湿機能付きなんか止めちまおうぜ!という気分である。

なのでレビューとしてはあるまじき事だろうが、わたくしは全力で「中古のブルーエア機購入」を勧めるものである。前述通りフィルタさえ新品にしてしまえばほとんど事足りてしまうからだ。20畳以上対応の450Eなどですら3万円弱で売っていたりしてコストパフォーマンスは高い。耐久性はガチガチに高く水分で腐敗していることもないので、煙草臭などを除けばだいたいの個体が通常使用に事欠かないレベルにあると思われる。展示品出品もおおいし。
唯一、電装関係の弱さは指摘すべきだろう。この個体も一度だけ電源断などの症状が確認できた。コンセントを抜いてしばらくしてから再接続すると何事もなく再起したが、このあたりの不安点と保障の無い安価な中古購入を天秤にかけると少々揺らぐところ。新品は3年保障が付いているとはいうものの。たまに型落ちの新品がアウトレット価格で売っていたりするので狙い目かも知れない。


というわけでブルーエア270E Slimを見てきた。
加湿空気清浄機ユーザーからすると、空気清浄の考え方をがらりと変えてくれるマシーンである。我々は知らず知らずの内に、空気清浄には加湿やイオン技術が不可欠であるという汚染に晒されていたのかも知れない。そういった知識の汚染もフィルターでこし取ってしまうのがブルーエアの真価だというのはどう考えても言い過ぎだが、とにかく物事はシンプルが良い。北欧生まれの剛健な空気清浄機はその偉容でもって、僕らに「空気清浄機はシンプルな脳筋パワーファイトなのだ」と教えてくれている。あと「世の中カネだよね」とも。




↑今回の品
↓現行機