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買っちゃったよ。買っちゃったのかよ。
デロンギのコンべクションオーブンの古くさいモデルをヤフオクでゴミ値で買って使っていたのだが、アナログ式のタイマーが壊れて反対側まで止まらずに回るようになってしまい、焼き上がったと思って焼いたものを取り出してほおって置くと勝手に再加熱し永遠にカラ焼きし続けるというかなり恐ろしい状態に陥ったので、慌ててオーブンを買ったらこれになった。慌てすぎではないのか。

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家電業界に聡い方であれば当然ご存じであろう、業界騒然の革命児、バルミューダの高級トースター「ザ・トースター」である。カラーは新色グレーをチョイスさせて頂いた。

バルミューダは最初は金属の格好いいノートPCスタンドなどを売る、良くある単純なオサレ加工系PC周辺機器屋さんだったのだが、ここ数年で高級家電の革命児として市場を席巻。DCモーターと特殊ファンによる自然風に近い送風を実現するというGreenfanシリーズはダイソンに引き続き扇風機・送風という長らく凪の時代が続くつまらない業界に新風を巻き起こした。うまいこと言った。
このまま扇風機屋として進むのかと思えば予想外にキッチン家電、しかも脇役中の脇役とも言えるトースターに参入し、あろう事かそれが従来のトースターの優に10倍ほどの値段、しかしながらその個性とデザイン、何より圧倒的な実力が口コミで広がり話題沸騰。トースター業界という長らく氷河期のように動きの無かったジャンルを一気に加熱させた。うまいこと言った。


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さて内容物と付属品。といっても書類を除けば本体とカップだけだ。

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書類。説明書の他にガイドブックが付いている。調理家電にはよくあり、そこまで大仰な装丁でもない冊子である。
中身は基本的なバタートーストやピザトーストなどの作り方が載っている。ほとんどの場合乗せて焼く以上の調理法などないのだが。

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外観。昨今のオシャレトースターのトレンドはデロンギやプラスマイナスゼロの、ガラスを巧みに用いたフレームレスっぽいデザインだったが、それとは真逆に石窯などをモチーフとしているのであろう、骨太な額に小さいのぞき窓が目を惹く。シンプルなダイヤル、ミニマルなデザインがかなり格好良い。

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このカップは5CCの水を入れて、本体上部のトレイに注ぐためのもの。水って何だというハナシは後述する。



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上部。水のトレイと、各々のモードで対応するパンを焼くときの時間などの記載。

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トレイは柳宗理のボウルを思わせる、つまりは金属感があるだけのシンプルなデザイン。前述のカップで水を投入することで、スチームによる素早い表面焼き上げを実現しているとのこと。定期的に経路上の水垢取りが必要になるのは言うまでもない。たかだか一回5cc、それもパーツは取り外せるのでクエン酸とかで拭くだけの話だが、投入口の水垢は見えるとかっこわるいのでこまめに拭きたい。

指定は割とアバウトなのだが、パンの質によって変わるということか、あるいはその程度はトースターでカバーしてくれるのか。



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ドアおよび上部にぴらぴらと付いたトレイカバー。カバーのバネによるドア開閉連動の動きはかなりぺなぺなでたまに引っかかりそうになる。もう少し精緻であっても良いと思う。
ドアヒンジはただ軸にはめてあるだけで、ラッチもなく触るとバタンと落ちるように開く。これは内部トレイの引き出し機構側にバネが付いているためで、トレイをドアにひっかけるとしっかりとした開閉ができるようになるが、初回はとてもびっくりする。普通のトースターには良くある構造なのだけど。



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モードセレクターノブ。マイコンを駆使するトースト、チーズトースト、フランスパン、クロワッサンの4モードと、他にワット数指定で使えるクラシックモードが付属。


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タイマーノブ。外観から想像できるようにデジタル式である。時間指定は5分までは30秒刻み、以降は15分まで1分刻みと若干ラフな指定。インジケーターはLEDで発光。一般的なオーブントースターはタイマーもベルもアナログが多いので新鮮だ。
個人的には電子音よりも物理ベルが奏でる小気味よい音が好きなのだけど、本製品のベル音はさすがに無神経なピー音や権利切れ古典曲の打ち込みサウンドやお節介な人工音声などでもなく、ぴぴーんというなかなか小気味よい音が鳴る。
小気味よいが、30を迎えた我が身ではそろそろこの高音でピーと鳴るベルが聞きにくい耳になってきた。冷蔵庫の開けっ放し警告とかもたいてい甲高く聞き取りにくいがあれ世の主婦の皆さん聞こえてるんだろうか。


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外観はこんなところだ。プラスマイナスゼロなどに代表されるような最近のミニマルでオサレな家電群を思わせる、いやというかバルミューダも間違いなくその戦列の一員だが、とにかく古い住宅の雑然としたキッチンに置くのが少々はばかられるくらい格好の良い外観をしている。栄える置き方をするとなるとカタログ写真のように古材のキッチンカウンターなどイマドキのオサレ空間が求められるだろう。モコズキッチンごっこに走るのもいいがDIYもほどほどになさって下さい。




さてこのザ・トースター。の何がすごいのかを説明していこう。まずトーストが美味しく焼ける。以上だ。イカレた仲間を紹介したぜ。


いやもっと何かこの製品に言うことがあるでしょうたとえば完璧な温度制御とか、水を入れることで最初にスチームで表面をあぶって香りと水分を閉じ込める新機軸の発想とか。
いえ別にそういうことは枝葉末節です。説明書やカタログでもメインで強く押し出されているのはあくまでトースト美味しいというプリミティブな小並感です。トースト美味しい。以上。

競合(というか後追い)のアラジンのトースターはメーカー特許の0.2秒で最高発熱まで達する遠赤グラファイトによるパワフルな加熱能力を謳ったりしている。パナソニックやタイガーのトースターはさまざまな機能のボタンで一杯で、カタログの大半がその機能の説明に裂かれている。
それに比べて本製品のコマーシャルは、まあ確かにスチームとか温度制御も書いてはあるが、ほとんど美味しそうなパンの写真とレシピが大半を占めている。おかげで庫内寸法を知るより先にチーズトーストのレシピを覚えてしまった。

だが本当に正しいのはどっちだろうか。0.2秒で発熱することとトースターの旨さになんの関係があるんだろうか。ヒーターが日本製かどうかというのは、製品によって作られるトースターの味に優先して知る必要のあることなんですか。


つまりそういうスペックや機能を喧伝するのでなくあくまでも消費者の体験を重視した製品がこのザ・トースターである。カスタマー・エクスペリエンス!なんとうさんくさいマーケティング用語か。カタカナで言うとさらに最高にしょうもなく見えてオススメだ。

語のどうしようもなさは置いておくにしても実際のところ、Appleをはじめとする今をときめくメーカーを評する際ぴーぴー言われている事でもある。近年の消費者が欲しいのは体験であってモノは媒体に過ぎない。消費者は0.2秒で発熱するグラファイト管でなくジューシーさを残したままカリッカリに焼けた美味しいトーストが欲しいのだ。

いやよく考えるとこんな事は近年どころか有史以来モノ作りの基本であるはずではなかろか。
スペックてんこ盛りにしてそれそのものが幸福な体験と化している倒錯した芸術品もあるしステキではあるが(VAIO Z CanvasとかVAIO Z CanvasとかVAIO Z Canvasとか!)、モノ作りの本来の姿は道具であり体験や結果の媒体であるべきでしょう?



うんちくを一つ。世の中のたいていの車には備わっているが、たいていの最安グレードの軽自動車と最高級車メーカーであるロールス・ロイスにだけは付いていないものをご存じだろうか。エンジン回転計(タコメーター)である。

(現行は)V型12気筒で6000cc以上という、普通の車のエンジンが二台あっても足りない超弩級エンジンを搭載し、この豪華装備満艦飾の鈍重な巨体にして0-100km加速は並のポルシェすら凌駕するという化け物でありながら、エンジンが何回転回っているかを知る術はないのだ。なぜか?


もっと言うならば、かつてBMW資本に下る前まではこのV12だの6000ccだのというエンジンスペックすら非公開だったのがロールス・ロイスというメーカーである。その代わりスペックシートには厳かに「必要十分」と書かれていたとまことしやかに語られている。良く聞くジョークでは無いが、ロールスには不足も故障も存在しないのである。下手をすればエンジンなどと言うモノの存在すらおおっぴらには認めなかったに違いない。「オーナーを極上の快適さで目的地に送り届ける究極の移動手段」のための道具であればよく、その媒体たるクルマの中身など内燃機関だろうが反物質対消滅機関だろうが関係ないからだ。スピードと違って回転数やエンジン排気量が交通法規に引っかかることもないし。


というかそんなどうでも良い情報で主人を煩わせることが既に執事や裏方たる者のやることではない愚昧な行為である。そういうレベルの体験に対する意識の細やかさこそ、「パルテノングリルとフライングレディ」が、クルマの、いや移動手段の王たる地位に厳然として君臨している理由の一つだと言って良い。

モノがモノだけに高貴にして傲慢の極致のようなエピソードに聞こえるが、これもまさにモノではないもの、体験を売っているのだ。よく考えると実に誠実で真面目な「モノ作りの真の姿」とか言いたくなるくらい立派な姿勢ではないだろうか。

それこそ「モノより思い出」などと言うとどっかの国産車の宣伝文句であるが、それ自体は大変正しいのだが結局やってることは典型的なモノ売りメーカーだし(あのメーカーは自社の弱点に対する虚勢を張ったCM好きだよね)、実物の製品がもたらす体験という実力を伴っていなくては言えないセリフでもある。ああだこうだとどんなオモチャが付いていてこんな出力がとっても高くて、というモノやスペックシートをびらびらと見せびらかすことで実物の不満点を覆い隠している「高級車」ばかりに一時はなってしまったが、もはやスペックシートに金を払う消費文化は終わった。


で、これとザ・トースターをくっつけて考えるとなるといくらなんでもちょっと風呂敷を膨らませすぎだし「トースターのロールスロイス」などという死ぬほど安っぽい形容をこの製品に冠するのは気が引けるのでこの辺にしておく。何が言いたいかというとモノより体験、花より団子なのだ。胃袋を掴めばどんな人間もイチコロって奴だ。何か急激に論が粗雑になってきたぞ。黙れ俺はおなかがすいてきたんだ。トースト食わせろ。

 

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トースト食べる。まずはっきり言ってシンプルすぎてあまり融通は利かなそうに見えるが、パンを熱するのに焦げる以外のNG行為などない。モードと時間さえ指定と状況に合わせておけば問題ない


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開発者(社長)一押しというかこのために開発したと公言しているチーズトーストでいってみよう。トーストにシュレッドチーズをブチまけて突っ込む。


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水を入れる。


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モードと時間を合わせる。時間については本体上部に刻印されているとおり4~5分。焼き目の微調整が必要ならば自分で見て判断するしかないようだ。もっと細かくやってくれる高機能オーブンもあるようだが、目指すところは美味しいトーストであって細かい注文に応えることでは無いのだろう。

実のところ多少時間をオーバーしても焦げ焦げになると言うことはないようだし、こちらも別に焼き目の具合に偏執的な拘りがあるわけでもない。信頼して一任する。

 

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タイマーノブをひねってから数秒たつと電子音とともに暖めが始まる。


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まず投入した水が一気に蒸発してスチームとなり、窓が水蒸気に包まれる。スチームで表面を焼き上げるという説明の通りだが、こうして曇るのは言うまでもなく多分に演出的な意図も含んでいるだろう。スチーム皿の噴出口が何故か窓の方を向いていることだし。


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やがてガラス管が細かくオンオフを繰り返し、的確に熱を通していく。ぶっちゃけオーブンの調整などと言ってもヒーターのオンオフしか原理的には存在しないので、ここの調律がこの製品のキモとなるわけだろう。

最後にガラス管が発熱しっぱなしになって、ここで焼き目を付けていく。チーズトーストならばシュレッドチーズがふつふつと沸騰し、やがてきつね色の焦げ目が…

といったところで前述通り小気味よい電子音とともに暖め終了。

 

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はい。みたまえこのナイスな焼き目の付いた芳醇に香るチーズトーストを!さしたる必要も無いのにこの絵面のために木製のカッティングボードを買ってくるなどやることがイヤらしい。


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今回は写真も妙にマクロに寄った上に絞りを開け放っているなど相当クサい画を目指していて、つくづくモノに流される人間であることがよくわかります。


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たっぷりの蜂蜜。今回は国産アカシア。


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それに、少々の黒胡椒を入れるとのことだ。マダガスカル産ブラックペッパーをキメるとしよう。つくづくイヤラしくキラキラしい内容を目指している今回である。食パンも地元の名店と言いたいところだが都合が付かなかったのでコープで買ってきました。

 

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たべる。

 

 

う、うわあ…

や…やるじゃない(ニコッ)(吐血しながら)

 

 

精一杯の虚勢で平静を保ったが、うむこれは確かにレベルが一桁違っている。いつもならそこらの普通の食パンでこのような芸術的な焼き目のチーズトーストを目指そうものなら、パンは味気ないクラッカーのようになるのが関の山だ。

しかしこの、ザ・トースターにて仕上がったチーズトーストはどうだ。しっとりふかふかを保ったまま実に見事に火が通っている。かといってチーズや耳の内側が生焼け程度だったりすることもない、絶妙に焦げ目の付いた表面もその中のとろとろなチーズも的確に焼き上がったパン生地も、パーフェクト、パーフェクトだウォルター。これはパーフェクトですよ。つーかうめえなチーズトーストにハチミツって!黒胡椒のひと味がオシャレすぎる。これはエスプレッソを淹れたくなる味だ。

 

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これはただごとではないと慌ててバタートーストも焼いて緻密な焼き上がりをチェックしてみる。逆だろと思ったのだが正直ここまで焼き味で驚くとは思っていなかったのだ。

ちょっと切れ目を入れるのがコツらしい。いただくとしよう

 

さっくり。ふんわり。

 

あまりの完成度に鼻からほう、と小麦とバターの香りあふれるため息が出た。美味いとか不味いとか以前にこれが美味いトーストなんだぞという説得力が半端ない。このトーストとはこういう旨さのモノであるべきだという、作り手の透徹した信念が胸に突き刺さってくるようなオーラよ。あなたが今まで食べていたのはトーストですか?あなたのその粗末な練り小麦の焦げカスがトーストだと?否。否である。ザ・トースターの提供するこの料理、これが、これが、これがトーストだ。バルバルバル。


耳の食感を特筆したい。行儀の悪い話で恐縮だが僕はこの手のトーストの耳は基本残す人であった。焼きすぎでバリバリに堅いか、そうでなくば生焼けで嫌な噛み切りにくさという印象ばかりがある。

それがどういうことかザ・トースターで焼いたトーストは耳が抜群のピカイチに美味い。どこも等しくさっくり、ふんわり、小麦香る、優しい食感が揺らぐことが無く、むしろトーストの妙味を余すところなくもたらす素晴らしい味わい。


というかトーストというモノ自体を舐めていたような気がしてきた。時間と気力の無い朝に食べる、これまでの味気ないトーストなどというものは、蜂蜜だのジャムだのとりあえず口当たりの良いモノを胃に運ぶための運搬パレットの類でしかなかったのではないだろうか。そのトッピングが薄く食感も悪い耳は真っ先に残してしまうのだ。

しかしザ・トースターで仕上がったトーストはパンこそが主役級。蜂蜜もジャムも正しく脇役の「トッピング」に成り下がる。何が驚くと言って、これそこのコープで売ってるヤマザキパンですよこれ。なのにこの芳醇な風味としっとりとしたきめ細やかな生地はどうだ。それでいて表面は軽やかとしか言いようのないサクサク感が、焼きすぎと感じることのない巧みな厚さでこのふんわり生地を覆っているのだ。

僕もグルメ気取りとして地元の美味しいパン屋さんを色々チェックしいろいろな各食を試してきた。その中にもこれに及ぶ旨さのトーストがあったかどうか。焼き方か。全ては焼き方であったのか。


焼き方という要素で小麦や乗せモノですらひっくり返すほどの違いがあるのだから、もう別にバターでなくてもマーガリンでも絶妙な旨さに変わりは無いだろう。以前から「トーストはバターが良いマーガリン許さない派」だったのだが、我々はバターかマーガリンかの話をする前にパンの焼き具合に拘るべきだったのだという真実に覚醒してしまった。ああ、嗚呼、人類はこれまで何という愚かしい争いを続けてきたのだろう。真実は、トーストの辿り着くべきイデアにおいては油脂が動物性か植物性かなどさしたる問題では無かったのだ。その間にマーガリンはプラスチックなどという事実無根の差別的言説や、トーストを床に落とすときはバターを塗った方が常に下向きに落ちるなどという荒唐無稽な反社会的迷信に荷担し、不毛な対立に動員され続けて多くの人を傷つけてきたのだ。おお神よ許し給え…。

 



 

懺悔と食後のカプチーノが終わったところで一息ついて、いやはやこれは確かに巷のデジモノファンたちが度肝を抜かれるのも当然であるという結論に至った。トーストが美味しく焼ける、というのがよもやこれほどのレベルだとは思わなかった。


正確を期して言うなら、巷の高機能スチームオーブンレンジの設定を駆使してこれと同レベルのトーストが焼ける可能性は十二分にあると思う。ヒーターのパワー、温度管理、スチームのパワーなどはそういった高級オーブンのほうが1歩も2歩も先を行くはずだ。

しかし朝にパンを焼くと言うときにオーブンレンジで長大な余熱時間と時間調整が必要なのがおっくうだからトースターというモノがあるのである。多くのレンジは両面にヒーターが付いていないため途中で裏返さなければならないという点もある。


これらは専用品の強みという奴だが、それよりも何より作り手の目指すところが良く伝わってくるのがうれしい。アッハイ、トーストも焼けるモード付けますね、ということでなんとなくトーストモードが付いているオーブンでなく、トーストしか焼けなくて良いんだよ俺ァこういうトーストが食いてえんだよォ!という理想が伝わる。さっきも言ったけどこういうモノやスペックでないソフトとか魂とか理想とか、体験を売っている製品としてじつに心に刺さる。


また、使っていく内に気付いたことは、このトースター、そこらのコープのヤマザキパンだのヨーカドーのセブンプレミアムの食パンだのを焼くと目玉が飛び出るほど「化ける」が、もとから美味しい食パンを使った場合正比例して目玉が飛び出る美味しさに仕上がる、と言うことは無いようだ。

すなわちプティフールの角食、イソップベーカリーの菓子パン、エグ・ヴィヴのライ麦パン、ブーランジェリージンのクロワッサン、セイコーマートホットシェフのパンオショコラなど、札幌近郊の誇る綺羅星の如き名店御歴々のいくつかを焼いて試してみたが、どれもこれも最初から当然のように美味すぎるパンたちが焼き方によって神の域に達したことは認めざるを得ないものの、「そこらのパンが化ける」指数が高すぎて正直名店パンを焼いても名店パンの美味さには感動するがトースターとしての感動はそれなり、というぜいたくな状況であった。



難点も上げていくと、体験を売る製品してはいくら何でも筐体がお粗末すぎる。iPhoneを見習う必要こそないが、トレイや開閉機構、部品のチリ合わせ、筐体のぺなぺな感などもう少し「神の宿る細部」であってほしかった。

生産は中国であるがそんなことは問題ない。iPhoneだって中国製だ。ここらへんの「質感の高さ」もまあ一種のモノ=スペック志向ではあるのだが、蒸気皿からフワフワ蒸気が漏れていたりするのはさすがに他の製品の4~10倍はする道楽のような高級品としては甘いでしょう。「精度」と言うようなキモい神経質さは要らないが、なんだチャチぃなあと思わせない説得力は必要だ。


ただし、日本のメーカーでありながら、今時のメーカーの抱える死の病である「ニホンスゴイ」臭を一切出そうとしないのは、このメーカーに最大級の敬意を払うべき点だ。日本の技術だからすごいんだ世界に誇るんだなどといって過剰な自意識と非現実的な妄想で悦に至っているという、知性の欠片もない頭ユルユルぽわぽわな宣伝文句は一切無い。次世代のモノ作りとしてはこれが正しい姿勢と言うべきだろう。




最後に本製品、トーストを焼くことに特化しているとは言うものの、実際のところはバタートースト・チーズトースト以外にも選択肢は広がっている。

まずピザトーストの類はすべてチーズトーストで網羅できるし、クラシックモード(大仰に言っているが単にスチームも調整もOFFにしてヒーター全開で暖めるだけだとおもう)では公式サイトで一緒に買える耐熱のおさらを使ってグラタンも作れる。当然、サイズが合えば普通のグラタン皿などでもできる。


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サイトに掲載されている無数のトーストレシピもなかなか見逃せない。有り体に言って「ひと味拘りがあるけどよくあるアレンジトースト」程度のレシピが多いが、なにしろザ・トースターで焼くのだからものすごく美味しくなるのではと言う期待感を高めてくれる。


また、オモチもクラシックモードでいけるし、揚げ物の暖めはクロワッサンモードが使えるようだ。まあ普通のオーブントースターでできることはできるのである。オーブンとしてはサイズがパン二枚分と少々心許ないため大皿や大型ピザは使えないが、ポップアップトースターほどストイックでは無い。

加熱パワーや使い勝手なども、特筆的では無いが概ね問題は無く、トースト専用過ぎて持て余す、ということも一応回避できるだろう。いやまあこれ買って最高のトーストを焼く気がないならそもそも買うなと言う感じではあるが。


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というわけでバルミューダのスチームオーブントースター「ザ・トースター」であった。

久々に国産家電で「こいつは良いものだ」と心の底から思った、と言うと大げさかも知れないが、全くもって賞賛しまくりたいくらい良いものであった。確かに価格は非常識なレベルだが、「トースター」でなくこういう便利キッチン家電の一種だと考えてはいかがだろうか。麺を作るやつとか焼かない唐揚げを作ったりするやつとか果物ジュースにするやつとかよりも、よほど使用する局面が数多く毎日の糧となる「モトが取れる」キッチン家電だと思うのだが。

というよりも今回はこのトースターの良さよりも、これで焼いたトーストの美味さを讃えたい。これが真のトーストであり、トーストは美味いのである。トーストはいいぞ。もう一度言う。トーストはいいぞ。









公式で買える専用のおさら。といっても野田ホーローのバットの裏にバルミューダロゴが入るだけ。買ったけどただのホーローバットだしストウブのグラタン皿のほうが大きさも格好良さもベストで良かった。





対抗機。この色は超絶素晴らしいと思う。