DSC_0002


iPhone6sも出たことだし、そろそろ多少はまともなイヤホンを付けたいと思った。(関係ない)
RHA MA750はイギリスRHA社のイヤホンである。eイヤホンでもオススメイヤホンの常連。

RHAは例によって長らくドライバーメーカーだったのが自社ブランドを立ち上げるという昨今の王道パターンで、今やAppleStoreでも扱われるような表舞台に立った成功者。MA750は以前は同社のフラグシップ級とされていた高級モデルで、RHA製イヤホンの多くに見られるような金属外装に、シュア-がけを前提とした通好みのスタイル、ダイナミックドライバー一発の潔い仕様で、価格は15000円周辺。MA750iはそのiPhoneリモコン付き版。


01245ef51b8a2e97d0dc3f7f2f0d74be3780951f7e

パッケージングはえらく凝っている。内容物は本体・イヤーチップ、ケースだ。

●外観

DSC_0004

金属外装という仕様を除けば、ハウジング本体はとてもシンプルで普通なスタイル。金属も削り出しのステンレスハウジングの質感はかなり良く、また音響特性のためか、ずっしりと高密度で分厚いことがわかるため、指先でつまむと小さいながらも確かな量感を漂わせて気分が良い。
持ったときなど左右ハウジングがぶつかると、「ビシッ」という甲高いが揺るぎのない金属球的な衝突音がして、質感の良さが尚伝わってくる。とはいえそれほどの衝撃がドライバに及ぼす悪影響は想像に難くなく、あまりぶつけたくは無い。ちなみに保証は3年と、けっこう長め

●ケーブル

DSC_0001

極細や布巻き、きしめんケーブルなどのオシャレな連中が闊歩する中、ごんぶとも良いところの野趣溢れるゴム質感なケーブル。色はイヤホンケーブルとしてはかなり珍しい「ゴムっぽいグレー」で、レトロな趣すらある。ただし、安っぽいとか頼りないという言葉とは全くの無縁でむしろこれだけがっしりとした皮膜のケーブルも昨今珍しい。タッチノイズにも電子ノイズにもかなり強そうだ。

DSC_0005


端子部分も異様に凝った作りのガチムチ金属フレーム。往年のヴォーカルマイクやエレキギターの標準端子を思わせる。イヤホンでは多分初めて見たが、針金をまくタイプのケーブルガードまで付いており、やはりケーブルの色や太さなども含めてここらへんはわざと「オールドなオーディオや楽器のレトロ感や重厚さ」を意識しているとわかる。
リモコン部分も金属と重厚ゴムの手応えがうれしいガッチリ仕様だが、こちらは耳からぶら下げるには少々重い。

●装着感

a0115b911f11620

まずこの豊富な付属イヤピースを見せびらかしたい。金属カードに収まっており付属ケースに入れることを前提とした作りで見た目も良い。
定石通りの3サイズの他に、SHUREやコンプライのような低反発ウレタンピース、EtymoticReserchのような2段キノコが用意され、イヤーピース買う必要が感じられなくなってしまう。
低反発ピースも好きだが、いかにも重々しい付け心地になってしまうためここは2段キノコにしてみた。
若干ゴムがひっくり返りやすかったりして本家には及ばないが、良好な遮音性と保持力がある。

ハウジングの重さはシュア-がけなこともあってそれほど気にならない。かけ心地は上々なのでは無いだろうか。耳にかかる部分が黒く別材質のゴムになっており、10 ProやUE900ユーザーならすわ針金入りかと戦々恐々とするところだろうが、型というかクセこそついているもののただのツルツル質感のゴムなので安心して欲しい。

DSC_0006

気になるのがケーブルとリモコンだ。シュア-がけとごんぶとでタッチノイズを制したかのように見えるが、あまりにごんぶと過ぎるため頭を動かしたときに動く圧倒的なケーブルやリモコンの質量移動そのものが微妙に気になってしまう。音無きノイズとして耳に感触が残るという感じ。
まあ他と比べて特別ノイジーというわけではなくむしろ良いほうなのだが、むしろ気になるのはポケットのプレイヤーから伸びるごんぶと灰色ケーブルが、どのような格好でも以外と悪目立ちしてしまうことだ。微妙なところなのだがこの太さと色は「イヤホンケーブル」というよりは「何らかのヒモ」「医療関係かなにかのチューブ」に見えてしまう感じがある。だらっと伸ばしていると少々視線を感じることがあった。

●スペック
このBAやハイブリッド流行のご時世にダイナミック一発という旧態然としたスペックで新興イヤホンを名乗ろうという無謀さ(そんなことはありません)、16Ωというインピーダンスも100dbの感度も特性もスペックシートには特筆すべき事項はない。
ただし、周波数帯域は日本のハイレゾ絡みの計測方法に合わせた結果16-22kHz→16-40kHzになっており、パッケージに記載はないものの「ハイレゾ対応イヤホン」だ。まあーわかってたけどイヤホンという完全にアナログな音の出る機械にこのハイレゾ表記ほんっと意味ないと思う。上位機種なら事実上たいていクリアしてるはずだし。


●実聴
金属ボディにうっとりし終わったので早速聴いていく。音源はiPhone直差し。

さすがに暫くBAシングルのイヤホンばかり使っていた身からすると、比べものにならない量感を伴った低音。それも体積だけデカい、だらしのない低音でなく、むしろこちらの身が締まるほどビシッと締め上げられて揺るぎなく密度が高い。それでいて当たりは極めてまろやかでカドが丸められている。

高音はエージング不足のおろしたて故かサラつくものを感じるが、解像度やクリア感はダイナミック一発一万円台というのが信じがたいレベルにある。かといってレンジだけが広い白黒画像じみた冷たい高音ではなく、伸びやかさと鮮やかさもたたえた、実に暖かく豊かな高音。もちろん高級BAなどに及ぶわけではないものの、高級ダイナミック機を思わせるもので、BAイヤホン好きである自分でも納得せざるを得ない。

中音も実に隙が無い。艶やまろやかさ、迫力、響き、どれも決して許容範囲を下回らない厚いボーカル。超高級アドレナリン噴出大満足みたいなパワーは無いが、全体的に若干遠く感じるのを除けば、非の打ち所が無い。

傾向としては若干ドンシャリと言えるのかも知れないが、この締まった低音と温かい高音に、この単語を考え為しに使ってしまうのはもはや誹謗の域である。
総合して一切の破綻や偏りというものを感じさせない、完璧なバランスと揺るぎない安定感、誰が聞いても聞きやすく絶対の信頼を寄せられる、高次元で的確にまとまった非常に優れたリスニングイヤホンだとおもう。

こうまでバランスが良いので基本的にどんなジャンルを聞いても同様に耳に優しくバランスの良い世界観で音楽に酔わせてくれる。クラシックやジャズの弦管楽器も、ロックやメタルのベースもドラムも、ポップスやアニソンのボーカルも、どれも等しく高次元でクセのない音楽体験として供される。
本当にどんな曲を聴いてもじつにクセのない、バランスの良い、とげの無い、平和で、素直な…


いやあすごいこのイヤホン、僕の初心者レベルのイヤホン歴ではあるが、その中でおそらく最もしたたかで、唯我独尊で、クセの強い、一筋縄でいかないイヤホンだと思う。なんという油断のならないイヤホンか。危うく騙されるところだ。素直などという言葉はこのイヤホンから一番ほど遠いところにある。

つまりこのイヤホンの「バランスの良さ」は完全に演出である。いやそりゃ人が作ってるんだからどんな音も演出だけど。
バランスの良い音、と言ったら普通は音源に対し素直で味付けをしない感じをイメージするが、このイヤホンはそういう意味では全くバランス良い音などではない。これは「ユーザーが聞いたらバランス良いと感じるような音」を圧倒的演出と味付けでもって作り上げて出しているのだ。独善的、暴力的なまでの意思を持って、入ってきた音を「バランスの良い音」に調理している。

そもそも音楽や音源など、バランスが取れているかどうかなど全く保証のないカオスな魔界の産物であって、イヤホンが素直ならばそのカオスな化け物が塩振っただけの姿焼きで出てくるのと同じだ。
それに対してどのような頭のおかしい魔物を投入しても、なぜかおいしいBLTサンドイッチとなって出てくるのがMA750という感じ。

そういうダンジョン飯みたいな世界観から、もうちょっと現実に尺度を戻して言うなら、上流階級相手の完璧な執事や商売人といった感じ。サヴィルローで上流階級相手に営業する老舗のテーラーの店長というか。お前サヴィルロー行ったことあんのかよ。あるわけねえだろこちとら年中吊しのスーツが一張羅じゃ。
完璧な接客、完璧な製品、完璧なサービス、絶対に負の感情など抱かせない、絶対の信頼を置ける一流どころ。町行く上流階級は皆、彼が親切で完璧で公正で信頼できる仕立屋だと口を揃える。しかしそれはしたたかな演出であって、彼の素顔では無い。そういう強烈なキャラクター性がある。

また、ネット上で「音が遠い」という感想を見る。たしかにiPhoneなどで聞くとかなり音量を上げないとかなり音が遠い。単純に音が小さいと言うよりは遠い。
現実にはiPhone程度の貧弱なソースでは、ちゃんとしたイヤホンでは音が小さすぎる。だがMA750の場合は貧弱とか音が小さいとかの感想は抱かせない程度に気配りが為されているように思う。だから「遠い」という感想になるのではないか。
しかしFiioのE02程度でもいいから、ちょっとしたアンプを噛ましてやったりすると、とたんに音が近づき分厚くなって実力を 示す。スペック上のインピーダンスは16Ωとむしろ低いとすら言えるのに、挙動は完璧にハイインピーダンス機のそれだ。少しでも持つ者には舌なめずりせんばかりの勢いで距離を詰めてくるのだ。

指向はクラシックやジャズやロックなど比較的トラディショナルな楽曲に向いた指向であり、アニソンやポップスやボカロなど向きでは無いように感じる。このため、今時のアニソンを聴くにも古典風というかキュンキュンしくない曲で威力を発揮する。最近のところで、血界戦線からUNISON SQUARE GARDEN「シュガーソングとビターステップ」を流してみると、ドンピシャで決まった感があり、笑えるくらいオシャレ度が高まる。またニンジャスレイヤーからELECTRIC EEL SHOCK「NINJA SLAYER」やPINBALLSの「劇場支配人のテーマ」などのがっちりロックンロールな曲を流しても、これまた音を立てて錠が噛み合う如きノリの良さ。ドラムの締まりが効くんです。
じゃあキュンキュンなのとかガンガンなのとかイケイケなの(どんな語彙だ)はどうなるかというと、それらを聴いても別に違和感や物足りなさがあるわけではない。むしろステキな古典ロックを聴いているかのような楽しさで包んでしまう。同じくニンジャスレイヤーED集からサイバーでプログレめいたアトモスフィア溢れる曲達を流すと、片手でいなすが如くに聞きやすく鳴る、なんたるワザマエか。
きっと今時のチャラい楽曲の鳴り方など頭から馬鹿にしており、旧来的価値観における良い音に作り替えてやろうという、実に封建的というかパターナリス ティックなイヤらしさがあると思いませんか!思いません。

対抗として思い浮かぶのが同じイギリスの金属金属しいイヤホン、AtomicFroyd。
聞き比べてみると、アトミックフロイドとRHA、両者は実に見事なまでに対照的だと言うことがわかる。まず、アトミックフロイドは全く万人向けでは無い。格調とか封建の国たるイギリスが時たま垣間見せるブッコワレ系のノリで、とにかくドンシャリガンガンズンズングイグイはっちゃけまくる狂気の産物。
しかし、これがただのザコイヤホンの起死回生をかけたイカレ系への傾倒ではなく、余裕綽々の確たる実力を持った上ではっちゃけていることは聞けば一発でわかる。

言ってしまえば富裕層向けの完璧なビジネスマンたるRHAに対し、アトミックフロイドは存在そのものが富裕層のお遊び。何一つ不自由しない余裕のある貴族の、メタルやパンクにイカれたぼんくら息子のような感じのイヤホンがアトミックフロイドである。メイクと衣装でどれだけケバケバしく反社会的に見せても時折見せる立ち居振る舞いは隠しきれない上流階級の資本を感じるという、別の意味でのイヤらしさがある。

という感じでこの二者の相反しながら似たもの同士っぷりは、掛け算でも始めればたいそうステキなことになるのでは無いかというまったくイヤらしい想像も沸いてくる。実にイヤラシいな。俺の頭が。

妄想一歩手前レベルまでの言いがかりを付けてきたが、事実としてMA750は非の打ち所の無いイヤホンなのだ。独自の世界観をもってどんな楽曲でも鳴らし切ってしまうイヤホンというのはそれだけでハイエンドクラスでなければ望むべくもない。いやBOSEみたいな例外はあるけどアレだって特別リーズナブルな価格じゃあ無いし万人に受け入れられる世界観じゃないし。コストパフォーマンス、と言う言葉すら生ぬるい。価格破壊ではないか。

とはいったものの、イヤホン世界なんていうものは2,000円のイヤホンと10万円のイヤホンが何食わぬ顔で並んでいたりする気の狂った世界であって、狂った世界の狂った基準で言うコスパの高さなんてはっきり言って当てにならない。
MA750だって、「お値段約1万5,000円也」これとしか言いようが無いのだ。適正価格なんてあってないようなものだ。
たとえば僕はK3003の約12万円以上という値段を、視聴して惚れ込んでからは法外だと思ったことがない。と言うと、買うと言ったわけでも無いのにだいたい例外なくキ●ガイ扱いされるが、そういうものと捉えるしか無いのだ。

その上で、かすかに残った人としての理性を振り絞るならば、これは安いです。確実に。ほぼ確実に、この値段を出したことでの不満は無いと思う。信じなくて良い。ただ聞いてみて頂きたい。「嫌う」ということがここまで難しいイヤホンもあまり無いと思う。



 




iPhone用リモコンの有無があるが、アンプを前提とするならリモコン無しの方が良い。
昔の抵抗付きリモコンじゃあるまいし音質に影響はさほど無いとは思うが、本製品の場合端的に「リモコンが金属製で重い」ため。
アンプを通すとリモコンが効かないのがお嘆きであれば、FiioE02のようなリモコン付きアンプが値段的にもお勧めだが、外したときの鮮度の良さを聞いてしまうと多少不便でもある程度の実力のアンプは通したくなる。