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赤い!
Etymotic Researchのhf3の皮膜をびりびりにしてしまった。
あれだけイメチェンしたような顔をして、やはりERイヤホンはERイヤホンでしかなかった。すなわち音は最高だが機械として脆く儚く、諸行無常の色即是空すぎる。有り体に言えば耐久性がない。
そういうわけでイヤホンを購入。

イヤホンという割と生活上重要なヒエラルキーに位置する(個人差があります)デバイスを選ぶ場合、当然値段をケチって後悔したくはないのだが、財政的に厳しい昨今、そうほいほいと資金を投入できるわけもない。本音を言うとソニーのH1や新興メーカーDUNU-TOPSOUNDのハイブリッドイヤホンを体験してみたいという気持ちは強いのだが、唐突に皮膜が破れたからと言って買い換えできるほど気安い金額ではない。

かといって、同等クラスのBAイヤホンなど買おうモノならこれらの「本命」からは永遠に近い時間遠ざかってしまうだろう。
hf3ですら安くはない価格帯である。おおなんと哀しき運命のジレンマよ。貧乏くさい話を何とか高尚にしようとしているが無駄な努力だ。おかねがないのがわるいんだ。

そういうわけで、「低価格でもなんとか繋ぎとして使えるイヤホン」を考えると、この「
コスパにおいて最強」とされるフィリップス97シリーズの最新機種SHE9710をチョイスする運びになった。


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はこ。

結構立派なケースがついている。3サイズのイヤーチップも付属。


○格安の代償(外装)

さてSHE9710(レッドであるため厳密にはSHE9712)、現在の実勢価格はほぼ3,000円と言ったところである。
3,000円!一般的なカナルイヤホンではかなり格安、と言いたいところだが音の世界の値段の話ほど「一般的」の言葉が信用ならない世界もない。
カナルBAを愛用しポータブルオーディオを楽しむ層ならば10,000円程度は「スタートライン」でしかないし、iPodやスマートフォンの付属イヤホンと同程度の世界で生きる層からすれば3,000円は「スタンダード」だろうし、音が出れば良いという人ならば1,000円以上のイヤホンは「ハイエンド」の域である。
とりあえず3,000円のイヤホン、という認識でモノを言うことにする。言わばiPodやWalkman純正イヤホンを視野に置くぐらいだ。

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外装。これはなかなか厳しいというか、3000円どころか1980円のイヤホンでもまだもっとマシなものが多数あるというくらい。

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各所パーティングラインが放置されており、手にはっきりと成形の甘さが感じ取れる。
予算内でがんばってメタリックな塗装をしてみた、といったところ。塗膜にもわずかにムラが…


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最近ほとんどのイヤホンが採用する、弾力があって
絡まりにくいエラストマー製ケーブル。好みが分かれるU字型。個人的には首の後ろに回すためこちらの方が都合が良い。


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プラグ基部は、奥が透けるゴミ安プラスチックまでほんの数歩、というところ。L字プラグだが尺は長めでケース付きスマートフォンにも刺さりやすい

Nexus5の赤と比べるとなんか見栄えが違いすぎて失敗した感がある。相変わらず写真だとNexus5の赤さはわかりにくいのだが…

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まあそうでなくても「赤」というものはコストをかけないとみすぼらしく見える色の筆頭だが、いやはや安上がりに作ったな、という感想。ただ危なっかしさや「これはひどい」という感触はない。それを言ったらSHE9710の数倍以上のプライスタグを掲げながら、成型や塗装が現代のプロダクトとして大丈夫なラインぎりぎりの製品など、イヤホン界隈には掃いて捨てるほどある


○コストパフォーマンスの威力(性能)

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本製品の真の威力はその音にある。いやイヤホンなのだから当たり前だが。
価格.comやらなんやらネットの耳の肥えた賢人が一様に口をそろえて曰く「とてもこの価格帯のイヤホンとは思えない」「8,000円~10,000円はするはずだ」と褒められまくっており、売れ筋もトップクラスだ。


20時間程度のエージングを経て、例によって内容に偏りのあるプレイリストを流し聞いていこう。

しゃかしゃか(視聴中)

3000円のイヤホンという前提で聞き始めると確かにこれは驚くべきクオリティだと思う。
まずバランスというか安定感が素晴らしい。この価格のイヤホンといえばたいてい低いか高いか、軽いか重いかあたりで致命的な破綻をきたしているのがほとんど。そのうえで音楽を聴くことを楽しめるように、ノリノリな味付けで誇張されているというのがこの価格帯のイメージ。
しかしSHE9710の場合、そういう破綻や無理が全くない。いや全くないかといえば当然のようにドンシャリ傾向だしちょっと音は軽くて団子になってるし解像感はおざなりだしとケチのつけどころはあるが、まったくもって無茶なことをしていない。まるでちゃんとした高級イヤホンのような真摯な志向で、どこをとってもきっちりと「イヤホンしてる」という感じで、ダイナミックイヤホンでありながらどこかしらBAイヤホンを思わせる音を生み出している。かといって線の細い神経質な印象や物足りなさなどを感じることもなく、あくまで基本はバリュー価格帯らしい元気で華やかな音で聞かせてくれる。印象としてはXBA-C10あたりの印象に近く、もうちょっとカドを丸めたような感触。

これは誰が聞いても、取り立てて「どこそこが気に食わない」などとは決して言わないだろう。「3000円ならスゴイ」と言う程度の話ではない。いちダイナミック式イヤホンと考えた場合、確実に「出来が良い」。


一方で、そうは言っても誰が聞いてもこれは高いイヤホンの音ではないのも事実。まあ3000円に粒立ちや解像感など望むほうが無茶というものだ。
それに魅力というものにもいささか乏しい。低音にしても高音にしても、そこだけ取るともっと魅力的な味や質を持つイヤホンはある。
まさしくソツのない優等生。と言っても現実の「優等生」は人間的な魅力や個性も兼ね備えていたりするのがこの世の悲しい現実だが、イメージされるような「優等生以外取り立てて魅力のない優等生」である

WIRED フィリップスの音のソムリエ、“ゴールデンイヤー”の秘密

フィリップスはゴールデンイヤーという自社育成の音響エキスパート達によって、大規模なリサーチに基づいた社内基準を満たす製品を作るというスタイルで音響製品を開発しているそうだ。

これは、一見完璧な開発体制に見えるものの、誤解を招く言い方を承知で言うなら『マクドナルド的最大公約数の目指し方』だと感じる。言ってしまえばあのマクドナルドの味はおおよそ世界中の7割くらいの人間が美味いと感じる味で、ある意味では『世界で最もうまい食べ物』だ。そういう意味で「世界で一番良い音」を目指しているのがフィリップスという会社であると、乱暴に言えば言えるのかもしれない。

技術の発達により、ぽっと出の新興国企業やベンチャー企業でもかなりのレベルの音質を持った製品を簡単に提供できるようになっている。そこで生きてくるのは「そもそもいい音とは何か」という哲学だと思う。ここまでいくと芸術の感性みたいな話になってくるため、少数の天才が人の話など聞かず万人受けを放棄し自己満足的に作り上げたモノが最高にすばらしい、と言うことは往々にしてある。「万人に受ける最大公約数」は良い選択肢ではあるものの最良とは決して限らないわけだ。ちょうどマクドナルドを「最高にすばらしい料理」と称する人間が多数派ではないように。

ただ、マクドナルドは最近では身の程をわきまえない価格帯に高騰しつつあるが、SHE9710の3000円という価格は間違いなく身の程をわきまえているどころかバーゲンプライスと言ってよく、だからこそバカ売れなのだろう。価格の安さはなんだかんだ言っても最強なのである。

ただし、1万円クラスのイヤホンのような音だ!などの意見はどうも疑問。
5桁到達製品くらいにもなれば、どういう志向であれ、さすがに音に一種の高級感が漂ってくるのが常だと思っている。しかし本製品は「まるで」高級イヤホンのようによくできてはいるものの、結局は普及価格帯の下のほう、程度の音で、到底「1万円クラスの音がする」とは思えない

しかし同時に、ある意味「1万円クラスのイヤホンのよう」という形容詞はよくできており、間違っていると断言はできない。何故かというと1万円のイヤホンでもこれよりひどい出来のがっかりするようなイヤホンはたくさんあるからだ。僕ごときの経験ですら、そう言わざるを得ないのだから、無数のイヤホンを耳に差し込んできたマニア諸氏ならなおさらそう思うのではないか。
いやいやまてまて、じゃあそもそも「1万円クラスの音」ってどんなんなんだよ、定量的に示せよ、などと思うだろうが、それを言われると、「いやまあそのくけけけふひゅひひ」などと、気持ち悪い嬌声を発しながら足早にどっかいってしまうのがオーディオをたしなむ者の宿命である。あまり深く掘り下げず、そんなもんなんだなと思ってほしい。

どっかいったオーディオ・イヤホンオタをほったらかして言うなら、これは誰しも勧められる優良イヤホンと考えて間違いない。3000円という価格も踏まえ、一聴・一携の価値はある。
bのマークのカッコつけイヤホンでドコドコと低音大好きな耳を作っていくより『健全な嗜好』が育つはずだ、というじつに不健全でキモい意識を持って、若人やイヤホン初心者の方に勧めておくのにも最適。



ただ、個人的には3000円ならもうちょっとがんばってXBA-1とかC10とか買っても良かったかなと頭をよぎらないでもない。BAフェチのたわごとかもしれないが。


ちなみに音漏れについて、本製品は本体に「ターボバス孔」という強力な熱線と音響によって相手を攻撃する新型兵器の発射孔が存在することにより、広がりの ある音質を実現しているとのことだが、鳴らしてみた限りオープン型イヤホンのように音漏れが大きいわけでもない。一般的なカナルイヤホン程度の大きさの音 漏れ程度と思ってよい。ごめん嘘ついた。いくらそれっぽい名前でもターボバス孔は新型兵器の名前じゃないです。そっちか。
そもそもそのターボバス 孔とか言うカッコイイ穴が、一体どこについてるのかがまず不明だが、「本当に大きく開口部があって、音は開放感あるけどガンガン音漏れするカナルイヤホ ン」という奴も少数ではあるが存在するのでちょっと構えてしまったが、本製品はそこまで心配することはないようだ。

値段と言い、使い勝手と言い、ここまで安価で有りながら極めてソツの無い、買って後悔しないイヤホンはなかなかあるものではない。唯一難点があるとすれば、iPhoneリモコン対応版があるとベストだったと思う。







青もかっこいい。