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珍しく図書レビューなどしてみるのだ。
普段デジモノいじりばかりやってるこのブログからは想像もつかないだろうが、基本的に文字中毒の人です。活字読んでるとハッピーです。
というわけで文体と毛色を変えて、こちらのごほんをさらっと紹介。最初に言っておくけどオススメとかそういうのではないです。いわば日記ですこれは。
で、この本はエリヤフ・ゴールドラット著「ザ・ゴール」
米国で1984年出版、日本で2001年に出版され話題になった。最近著者のゴールドラット博士が亡くなり、また話題に上っているらしい

なぜ突然にダイヤモンド社のビジネス本なのか?
私がつい先日、顔も知らなかった大伯父の経営していた、知るところには名の知れた一部上場大企業を受け継ぎ、突然会社の社長になってしまったことと無関係ではなくもないどころか、そんな頭の悪いサクセスストーリーは妄想すらしたことがない、じつに平和なサラリーマン生活を送っているので、たぶんそういう事情ではない。
すなわちじつに平和なサラリーマン生活だからこそ、上司やお客様の方の説教や飲み話のついで、お人生経験がお豊富であらせられる御大将より「オススメの本」のご指導を賜ることがあろうというものだ。つまりは限りなくよくある話だ。妙な期待を持たせかけた向きには申し訳ない限りだ。そういうのが読みたければ一部上場企業の社長さんのブログなどが、おそらくは一部上場企業の数よりたくさんあるのでそっちでも見てください。

とはいえど、これは謎の経緯で企業のトップに立つよりも、よっぽどマネジメント力や問題解決手法やリスクコミュニケーション能力や会計知識が要求される事態だと言える。
まず、そういう目上の方の紹介とあらばムゲにすることもできない。次にその目上Aさんと会ったときに「あの本読んでみたかい?どうだった?すごいだろう?」的なことを言われて、ああ読んでませんなどと平和なサラリーマンが言えるわけがない。適当に話を合わせるという手段もあり、これは手法さえ間違わなければ大抵は切り抜けられるのだが、それでもリスクは低くない。ならば読むしかないのだが、そうなると普段本など読んでない人間がいきなりビジネス書(専門職でないサラリーマンに目上男の勧める本など9割以上がこの類である)など読もうものなら、その手間で一週間分の業務はこなせよう。さらにその類のビジネス書、例外なく高価である。上司接待費としても本の相場としても、言うまでもなく内容とのコストパフォーマンスを鑑みても、だ。
一言で言うと平和なサラリーマンには面倒事でしかない事態であり、平和な上に無能なサラリーマンである私はうろたえるしかない。全く世の中面倒なものだ。
とはいえ人間何かしら取り得はあるもので、このわたくし文字中毒であり、書物には金を惜しまないことにしている性癖があり、どんなクサレ本掴まされても愚痴れる相手が家とネットにいるという強みを持つ。それを生かしてしまったがために、結局のところそのオススメ本をまんまと買わされてしまったというのが事の顛末。

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クソ分厚い。いや本は厚ければ厚いほど文字中毒者には嬉しい。のだけどこの電子書籍のご時世でこれはちょっとだいぶ買うのをためらった。場所取るし。

さてこの「ザ・ゴール」内容としては、「エリヤフせんせいのパーフェクト工場プラント効率化教室」をメリケン的テンプレキャラ連中の小芝居でお届けするという内容。工場プラントの話などをなぜ一介の事務員が読まねばならんのだ。
これを薦めてくれたのは某官公庁的なところのほうからやってきた上司氏である。彼によると、問題解決のプロセスや考え方として理想的である、とのことだ。たしかに「スーパー事務員としてやっていく方法」みたいなハウツー本をドヤ顔で渡されるよりはマシだし、別業種といえど学ぶことに意義はある。それを否定はしない。
しかしながら、だ。「大丈夫!【工場プラント】【効率化】の本だよ!」と聞くとこれはもういやーな予感がするのだ。これはすなわちアレのことではないのか。もしかするとそうではないのか、という疑念が拭えないのだ。
いいだけ疑念を募らせておいてネタばらしじみたことを言うが、これが実際何の本なのかは帯にもフツーに書いてある。エリヤフせんせーの素敵な効率化プロセスを実現するソフトウェアシステムの宣伝としてしたためられた本なのである。とはいえ「このシステムを買いなさい」という内容でなく、「この素敵プロセスを導入すると経営状況は右肩上がりだわとんとん拍子に出世するわ出て行った妻は帰ってくるわえらいこっちゃです」という内容。ではその素敵プロセスとは何か?件の疑念は好き勝手に塗り塗りさせておいて読み進めてまいりましょう。

とりあえず話は20年前のメリケン的標準工場プラントから始まる。何を作っている工場なのかは全く不明だし最後まで出てこない。主人公はここの工場長だ。とりあえず工場の納期は常に遅れっぱなしで、ロボット入れたけど効率はちっとも良くならず、最近会社は日本製に押され気味、うるさい本部上司からは「あと3カ月で経営改善しないと工場閉鎖な」とか無茶ぶりをされ、家に帰ると妻がぷりぷりしており、サボってピザとか食ってるうちに大学時代の恩師のことを思い出す。泣きついてみたらあやしげなことをいろいろ教えてもらったので、藁にもすがる思いで実行してみよう。というとっても理想的なサクセスストーリーの最初のあたりという感じ。文体テンポ内容とも非常に簡潔で読みやすい。
で、その恩師が教えてくれる内容はというと、1段階目くらいでもうわかっちゃった。ああもうここまで来たらやることはだれが考えたって決まっているでしょう。疑念適中といったところ。予想通りの車輪の再発明である。
すなわちカンバン方式。JIT(Just in Time)ジャストインタイムともいう。
天下のトヨタ自動車が世界に誇るアレ。いまさらありふれたビジネス書入門みたいな説明を書く気にはなれないので具体的な内容についてはWikipediaでも見るとよい。
まさか初版84年当時ですらもう枯れまくった常識と化していたカンバン方式を、2012年も始まろうというころにご教授いただけるとはね!温故知新も度が過ぎると、ボケ老人のたわごとである。いっそ産業革命時の歴史書でも読んだほうが、まだ知的好奇心は満足しよう。いくらゆとり教育世代と呼ばれる私であろうとも、ちょっと人を馬鹿にしすぎではないのかと。

ただ、本書内で恩師が主人公に教えるもの。すなわち「エリヤフせんせいの素敵なプロセス」は、確かにカンバン方式ではあるのだが、進化という名の再発明とアメリカナイズをなされたカンバン方式である。その名も「TOC((Theory Of Constraints)」だ。これまた詳しい説明は適当にさがすとよい。たいてい、好意的なところでも「カンバン方式から進歩させた」とか書いてあるし、批判的なところだと「カンバン方式の焼き直し」と手厳しい。位置づけとしては全体的な流れを見てちょっと各所を緩めた導入しやすいJITといった感じといえば説明になるかどうか。
つまりは、利益と在庫と活動経費で効率を評価して、全体の流れで詰まってるところを改善していきましょうというおはなし。
これにたどりつくため、主人公は息子の所属するボーイスカウトのみんなを実験台にし阿鼻叫喚に陥れたり、恩師をストーカーするあまり空港のゲートを突破したり、熱中するあまり妻に逃げられ、子供と共に自分の実家に転がりこんだりして、トントン拍子で手法を確立し成果を上げていく。最後は出世したし奥さんとヨリ戻ったし、ありきたりなマネジメント論ぽいことを言いつつめでたしで終わる。
というわけで520ページほどの本書を読破した私にはすっかり問題解決の手法が身についていたのだったらめでたしなんだけど別段そんなこともない。時間と金の無駄という明確な事実が残った。

かなしき事実から目を背けたいがしっかりと向き合って考えてみる。どうしてこんな無駄だったのか。上司氏は何を私に伝えたいのか。それを考えてみることにする。これぞ問題解決というものだ。
たとえばこれがカンバンやTOC発明当初に本書を読んだのだったり、そうでなくても私が工場プラントに勤めていれば話は変わってきたのであろうがそうではないのだ。まず第一、当初からカンバンの焼き直し認定されていたTOCであるが、さらに2000年以降ともなればもはや古すぎる。今のこの手の「素敵プロセス」の主流はTOCをさらに発展させたSCM(Supply Chain Management)という、原材料から生産流通販売消費までを全体のフローとし、効率のみならず顧客満足度までを改善するチームサティスファクションもご満足な手法だ。まあこのような素敵プロセスは時代が変わるごとに再発明を繰り返されて次々に変わっていくものだが、今時だとたぶんそのあたりがトレンドだ。まさか某官公庁的なところのほうからやってきたエリートとは言わないまでも有能な方であらせられる上司氏が、それを知らないわけではあるまいが。チラッチラッ。しかるにTOCというすごい考えがあるのだよ!ということを教えたかったわけでもあるまい。
とすると焦点は、TOC的考えを応用して仕事にあたれないかということかもしれない。しかしフローとボトルネックがどうこうなどと事務屋に言われても困る。全体の中で時間がかかるところを積極的にカイゼンしよう、なんてのは普通の業務では当たり前の話であって、それがどデカイ工場プラント業務フローにも当てはまってかなりうまくいくんだぜ!と知らしめた功績はあろうとも逆輸入で役に立つものではない。
カンバン方式の偉大なところは、実際に「カンバン」というアイテムを使っての行動が行えるところにあると思う。なぜかというと説明や導入がしやすい。中身をよくわからなくてもカンバンを作って手順どおりに回せばなんとなく、わが社もJIT導入だなとか言えてしまう。なにやらここらへん深く考えだすとソフトウェア軽視と唯物論的ハードウェア信奉に走って国際競争力を欠きつつある現代日本産業の暗部とかが見えてくる思いだが、そういう面倒な話は置いておく。つまりは、TOCみたいなことしようぜ!というわけではないだろうということだ。
さてTOCちっくな考えでもないとするならば、それを考えるに至ったプロセスが参考になるということだろうか。しかしながら、本書で主人公のやったことと言えば、読者に上司と妻についての愚痴を垂れ、忙しく世界を回る恩師先生に所時間かまわず国際電話をかけまくるなど、多大なるご迷惑をおかけしまくった挙句ロハでコンサルタント業をやらせ、工場の愉快な仲間たちにそれを触れ回って棚ボタ成功を成し遂げた、だけの話である。どう考えても「進研ゼミのチラシの勧誘漫画」ほどの価値しかないサクセスストーリーだ。まあ成り立ちからして進研ゼミ漫画と似たようなものだから仕方あるまいが。まさか某官公庁的なところのほうからやってきたエリートとは言わないまでも有能な方であらせられる上司氏が、その恩師先生となるべき要因だったんだよなんだってー、と遠回しすぎるアピールをしたいがためでもあるまい。問題解決のための大胆なアプローチなどなにもしていないのだ。
どうにもこうにも、上司氏が絶賛する理由が腑に落ちない。そこで、私が見逃していた何か重大な視点があるのかと、アマゾンレビューなどを眺めてみることにした。
評価としてはおおむね良かった。抽出したのは低評価の意見ばかりになるが、以下に要約する。ちなみにレビュー投稿時期はだいたいが2001年ごろである

「この本に書いてあるようなことは、向上心がある人なら誰でも知っている」
「内容はトヨタや日本企業がすでに実践している。本も出てる。なにを今さらという本」
「同じ内容でホワイトカラーの業務改善ができればいいのになあと思いました」
「当時のアメリカの製造業がどれだけひどかったかがわかる」
「この本に出てくる悠長な工場は官僚主義と前例主義の呪縛につかまった日本の行政を見るようだ」

決して某官公庁的なところのほうからやってきた上司氏に悪意があるわけではないのだが、何か恐ろしく痛快な意見があった気がする。特に最後。読まなかったことにしておこう。と言いつつ、もうこの意見を読めただけでこの本を買った価値があったとすら思ったのは内緒だ。
ここにきて上司氏と私の決定的な認識の差が浮き彫りになった。そもそもわたくしこのようなビジネス書など冷笑しているような人間だが、上司氏はそうではないのだろう。
往々にしてビジネス書は他業種について書かれたものが面白く、感動するものである。新しい発見があるような気がするからだ。長年、御役所的テンプレ建前事務業務作業に半生をかけてきた人間から見れば、この明快にしてロジカルな工場プラント効率について、小説調で順序立てわかりやすーく説明された本は、さぞかし魅力的で衝撃的な魔法の書に見えたのだろう。上司氏が本書を薦めた理由はそういうことなのだと思う。

だが、その魔法を真に受けてはいけない。たとえ読むのが「御役所事務作業をもっと極める本」などであってもだ。なぜならいくら衝撃を受けようと、それは結局進研ゼミの勧誘漫画でしかないからだ。勧誘の先にあるのが月々いくらの契約でなく、そのビジネス書が語る素敵プロセスであるというだけで、大人になってまで勧誘漫画に引っ掛かる必要はないはずだ。いや人間とはそうしたものだから、決して引っかかる人間を馬鹿にするわけではないが。
古典や学術書の域に達してるような名著はともかくとして、そこらのビジネス書はなべてゴミだと言いたい。普通の名作文学でも読んでたほうが、まだマネジメントや問題解決について学ぶ機会がある、と本気で思うよ俺は。なぜかというと文章作品は人間と人生を描くものだからだ。ためしに、真面目にこういうビジネス書的サクセスストーリーや進研ゼミ漫画を、いち小説、いち作品として捉えてみるとよい。これほど陳腐なものはないと感じるはずだ。ということは「世の中そんなうまくいくねえだろ!」的なことしか書かれていないということだ。

ここでタイトルどおりの感想である。チラシの漫画と同程度なビジネス書がひどいというより、あの進研ゼミのチラシの勧誘漫画が、ビジネス書として完璧なまでに設計されていたことを再認識してしまった。おおなんということだ。

クソどうでもいい再認識を果たしたのち、やはり人間、本(作品)をたくさん読むことは重要だと改めて思ったのでした。いろいろなものを激しく納得しながら、本書を読了。そっと手近なヒモで本書を縛りつけ、古新聞古雑誌の束に添えてそのままぐっすり寝ることにする。
後日上司氏に本の感想を聞かれたら、満面の笑みで「大変参考になりました」と、嘘偽らざる気持ちを伝えることにしよう。



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ほんともう何も読まないでビジネス本にはまるくらいならラノベでいいとおもう。最近だとベン・トーはちょっとおもしろい。